1.相続税とは

人が亡くなった際にかかる「相続税」。

一般の人々にとってはなじみの薄いものだったのですが、昨年の改正によって相続税を払わなくてはならない対象者が増え、注目を浴びています。

この相続税、制度はものすごく複雑なのですが、簡単にいうと以下の通りの手順で計算されます。

 

  • ①純財産…亡くなった時点の財産から負債を引いたもの。時価で計算します)
  • ②基礎控除…相続人一人当たり600万円に、3000万円を加えたもの)
  • ③(①-②)を法定相続分で相続したと仮定した場合の相続税額…①-②を法定相続分で割り、それぞれに相続税率を掛けます
  • ④相続税総額…③を合計します
  • ⑤それぞれの財産取得割合に応じて、④を再度配分します。

 

要するに、「全体を一旦法定相続分で分けたと仮定して総税額を計算し、財産取得割合に応じて分ける」という方法を採用している訳です。

 

この他、配偶者が財産を取得した場合の大きな特典や、その他控除、財産の時価を計算する場合の有利な制度等がありますが、今回は省略します。

 

2.財産に対してどれくらいの相続税がかかるか

相続税の「税率表」は、次の通りです。

【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

3,000万円以下

15%

50万円

5,000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億円以下

40%

1,700万円

3億円以下

45%

2,700万円

6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

 

この税率表、見ての通り財産が増えると率も上がる「累進性」を取っています。

しかし、たとえば「法定相続分に応ずる取得金額」(1.の③を計算する際に利用します)が1億円から1.5億円になった場合、急に30%から40%になるかというとそうではありません。

右の「控除額」という欄を見て下さい。

税金を計算する際は、金額×税率から「控除額」を差し引きすることで、財産と税金の関係が滑らかな曲線に近くなるよう設計されているのです。2億円までの財産に対する相続税は、次のグラフのようになります

相続財産と相続税の関係

相続財産(一人当)と税額との関係

 

では実際にどれくらいの相続税がかかるのでしょうか。

財産や相続人の数応じてたくさんのパターンがありますから、ここでは3つほどの事例を挙げておきます。

1.と同様、税制上の特典利用等は省略していますので、相続人も配偶者なしの場合だけです。

 

  • ①相続財産が5億円、相続人3人…1億2980万円(財産に対して約26%)
  • ②相続財産が10億円、相続人3人…3億5000万円(同 35%)
  • ③相続財産が1億円、相続人4人…490万円(同 約5%)

 

相続財産や相続人の数によって大きく変わることが分かって頂けたと思います。

相続財産、相続人と税金の関係については、当所のシミュレーションページにて色々と試してみて下さい。

 

3.「贈与税は高い」のホントと嘘

相続税は決して低い負担ではありませんから、生前に自分の財産を子供たちに移してしまい、相続税がかからないようにしたいと願うのは自然な流れかもしれません。

そうなると相続税が取れませんので、国は「贈与税」という制度を相続税法の中に置いて、そのような回避行為が出来ないようにしています。

贈与税の税率表は次の通りです。

計算方法は相続税と似ていて、贈与金額-基礎控除(110万円)に税率を掛け、控除額を差し引きます。

 

贈与税の税率表(一般)

基礎控除後の課税価格

税 率

控除額

200万円

以下

10%

300万円

以下

15%

10万円

400万円

以下

20%

25万円

600万円

以下

30%

65万円

1,000万円

以下

40%

125万円

1,500万円

以下

45%

175万円

3,000万円

以下

50%

250万円

相続税の表と比べて頂ければお分かりと思いますが、同じ税率に対して対象となる財産の金額が非常に低くなっています。ということは、より低い財産の時に高い税率が適用されるのです。

 

これが、贈与税が高いと言われるゆえんです。

このため、一般には「贈与は基礎控除(年110万円までなら税金がかかりません)までにすべき」という意見も良く聞かれます。

しかし、本当にそれだけが正しいでしょうか?

 

4.賢い贈与の利用

実際、贈与税の税負担はどれくらいでしょうか。

いろいろなパターンがありますが、例えば以下の通りになります。

 

  • (a)3人に110万円ずつ330万円贈与した場合…税額なし(財産に対して0%)
  • (b)3人に500万円ずつ1500万円贈与した場合…159万円(同 10.6%)
  • (c)1人に1500万円贈与した場合…450.5万円(同 約30%)
  • (d)1人に3000万円贈与した場合…1195万円(同 約40%)

 

これを1.の例と比較してみて下さい。

①の方は、何もしなければ相続財産に26%の相続税が掛ります。となると、(a)、(b)の贈与を相続人の予定者(推定相続人と言います)に対して先に行っておけば、対象となる財産に関してはより低い税金で財産が移転出来ることになるのです。

同じく②の方ですと、(a)、(b)、(c)の方法までが有利となりますが、(d)は不利となります。

このように、相続税がかかる金額とその財産に対する比率を予想し、有利な贈与を毎年行っていけば、相続税は効果的に減らすことが可能です。

 

5.税理士の活用

ただ、良い事ばかりでもありません。この手法を使う場合には、例えば以下のような点に注意する必要があります。

・  贈与税の申告が必要(贈与の翌年3月15日まで)

・  相続発生以前3年内の贈与は、相続財産に含められる(払った贈与税は相続税の前払としてもらえる)

・  財産の価値増減は読みにくく、有利と思っていたものが不利になる可能性もある

・  時価の計算は、財産の多い人は全てが預金でもない限りは非常に難しい(特にオーナー会社の株式や不動産の時価計算)

・  税額の計算シミュレーションは非常に専門的で、これもまた難しい

 

このため、この対策を採るに当たっては必ず相続税に強い税理士にアドバイスを依頼されることをお勧めします。

 

以上


1.日税連の調査結果

日本税理士会連合会(日税連)は今年、第6回目となる「税理士実態調査報告書」を公表しました。この調査は昭和43年以降大凡10年毎に実施されているもので、税理士業界の現状を把握するうえで重要なデータとして認識されています。

その中で私が少しばかり驚いたのは、「報酬規定」の項目です。

報酬規定とは、平たく言えば税理士の「サービス価格表」であり、ある業務を行う場合にはどれだけのお支払いをお願いするか、ということが示されたものです。以前は、税理士会によって「最高額」を定めたものがありました(税理士報酬規定)が、この定めは平成14年3月をもって廃止されています。

その後はそれぞれの税理士が独自に報酬規定を定める事となっています。

ところが、今回の調査においては、報酬規程を「設けていない」税理士事務所(個人)は回答者25,970人中16,703 人(64.3%)であり、「設けている」8,391 人(32.3%)となっていました。税理士会の報酬規定が廃止された直後(平成16年)に行われた前回(第5回))の調査においては「設けていない」(前回68.4%)でしたので、ほとんど状況が変化していないと言えます。

税理士業務は複雑多岐にわたり、一般の依頼者にとっては分かりにくいことも多くあります。このため、本来は消費者保護の観点から、事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者に提示できるようにしておくことが必要と考えています。

 

2.私どもの報酬規定について

私どもは、平成14年の税理士会報酬規定廃止以前から事務所独自の報酬規定を定め、定期的に見直しを行いながら運用しております。また、お客様からサービス提供のご依頼があった場合、明確な積算根拠に基づく見積書とともに報酬規定を明示し、ご理解を得るようにしております。

具体的には、下記の通り計算されます。

 

①法人、個人の決算、確定申告業務

下記の要素に基づく合計額によって、報酬年額を計算、原則として1/16を毎月、1/4を決算終了後ご請求することにしています(全て税抜金額)。

  •  定額報酬 5万円
  •  年間取引高(売上高など)に一定率を乗じた「リスクチャージ」
  •  業務内容から見込まれる業務時間と、担当する職員等のレベルに応じた「タイムチャージ」

 

②相続、分離課税譲渡所得(土地建物等の譲渡所得)

  • 上の確定申告業務と同じ考え方ですが、少しリスクチャージ率が高く設定されています
  • また、相続については以前からお付き合いのある方か、内容の難易度の高低などによって、基本報酬に対する増減率が定められています。

 

③公認会計士、公認不正検査士、その他コンサルタント業務

  • タイムチャージが税理士業務より少し高くなります
  • 想定される取引金額に一定率を乗じる「リスクチャージ」方式と、契約時に合意した成功報酬(差額利益相当金額に一定率を乗じた金額)から選択します

 

3.オプションについて

基本料金を出来るだけ下げ、付随業務をオプション扱いとしている事務所も時々見かけることがあります。

報酬規定の決め方はそれぞれですので、説明さえきちんと行っていれば良いと思いますが、実際に業務を行ってみるとオプション部分が必要で結局割高になってしまう場合もあり得ます。

私どもの規定はいわゆる「フルサービス」となっており、オプションの選択はありません。「この業務については自社で対応可能である」という場合は、タイムチャージが変動しますのでその部分で調整することになっております。


先日「監査等委員会設置会社へ移行した場合、ここに注意」 という記事を書き、監査役会制度と監査等委員会制度(以下「監査役等」制度とします)における法律、実務上の違いとその対応について説明しました。

この記事を書いている時点でも、毎週のように監査等委員会制度に移行する上場会社の発表があります。

制度自体の本質的目的への疑問や批判はありますが、今後の企業にとって「ガバナンス強化」という方向性が必要なことは明らかであり、監査役や監査等委員(この記事においては「監査役等」とまとめます)にとっては、これまで以上にその役割が重視される時代になっていると思います。

そうなると、「では監査役等はどのように監査すべきなのか」という論点が重要になってきます。

さらに法や会計に関する制度や実務が複雑化している今、監査役等はどの論点においても非常に難しい判断を迫られていると言えます。

会計分野はその中でも非常に重要かつ複雑と言えますが、その中でも特に専門的な分野である「会計上の見積り」という論点については、会計監査人たる監査法人や公認会計士に「任せきり」なのが実情で、リスクに比較して監査役等の理解、対応が十分とは言えないと感じています。

そこで今回は、この論点についてその概要とリスクの重要性、そして監査役等がどのような姿勢で、如何に対応すべきかについて、「会計の専門家でない」方でも理解、実践できるよう簡単に説明したいと思います。

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1.会計不正とは何か

最近特に注目を集めている会計不正。この会計不正はなぜ発生するのでしょうか。
投資家が株式に投資する際、最も重視する資料の一つが「決算書」です。
決算書は、会社が持つ現在・将来の「稼ぐ力」を見出すために必須のデータがふんだんに盛り込まれています。基本的に投資家は、このデータとその他の情報を組み合わせ、投資判断を行っているのです。

そうなると、この決算書を「実態より良く見せる」行為(古くから「粉飾」と呼ばれてきました)は、投資家を欺いて資金を得る、本質的には詐欺と同様の悪い行いであると言えます。
このような行為を、一般に「会計不正」と呼びます。

2.会計不正の類型

この会計不正、実は大きく分けて3つほどの類型があります。

①虚偽の事実に基づいて会計処理するもの
②子会社や関連会社、協力会社等を利用して損失を繰り延べるもの
③「会計上の見積り」を悪用するもの

このうち、①には、在庫の水増しや、架空売上などが当たります。実際に存在しない在庫や売上を計上することで、財産や利益を実際より増やして見せる、最も古典的な会計不正です。

売上から仕入や経費を差し引いたのが利益なのですが、仕入れた商品のうち決算期末に「在庫(まだ販売していない)」となっているものについては、「売上から差し引く仕入」に含まないことになっています。

このため、仕入は実際の金額を計算しておき、在庫を実際より不正に増やしておけば「売上から差し引く仕入」が少なくなり、結果として利益が水増しされるのです。

増やした在庫は実態のない資産として計上されますから、上の水増しされた利益と合わせて二重に会社の「稼ぐ力」を過大表示していることになります。

また、②には、損失の「飛ばし」や、循環取引(特定のグループ内で売上をぐるぐると回し、損失の発生などを先延ばししていくこと)が当たります。

これらは昔からよく行われる会計不正ですが、①は実地棚卸(棚卸資産を実際に数えて集計すること)や売掛金の確認(取引先に売掛金残高がどれくらいあるかを問い合わせること)で判明しますし、②に関しては子会社の監査や、通常と異なる条件の取引を調査することである程度見出すことが可能です。

これに対し、③に挙げた「会計上の見積り」の悪用が行われていることを監査によって発見するのは大変難しいのです。それは会計上の見積りが一般的に可視化できる事実とは離れた、「将来の予想」という重要な概念から作られているからです。

以下、もう少し詳しく説明します。

 

3.会計上の見積りとは

会計上の見積とは、一般に会計で取り扱う「売上」や「費用」といった個別の取引に関するものではなく、いくつかの概念を含んだ少し広い意味合いを持つ考え方です。

この会計上の見積について、日本公認会計士協会は、WEBページにある解説(「会計上の見積りの監査」)内で次のように説明しています。

財務諸表に含まれる金額のうち、将来の見積や既に発生している事象であるがその金額を確定するための情報が不足している場合など、決算上、金額を見積もって計上しなければならない場合を「会計上の見積」という。

この見積りには正しい情報が必要ですが、経営者が利用可能な情報やその信頼性には様々なものがあり、結果として会計上の見積りには不確実性が伴います。

単に不確実性が大きいだけではなく、経営者が利用する情報を偏って選択した場合、重要な虚偽表示(不正)が発生する可能性が高くなるのです(国際監査基準第540号より)。

会計上の見積りが関係する論点はいくつかありますが、以下、その例と想定される不正の可能性をいくつか挙げてみます。

①工事進行基準による収益計上

工事進行基準とは、工事やソフトウェアの開発等の売上を「完成した時に計上する」のではなく、その進捗に応じて計上する方法を言います。

総額100億円の工事を3年で進める場合、1年目の進捗が30%、2年目が45%、3年目が25%だったとすると、それぞれの年度における売上高(完成工事高)の計上額は30億円、45億円、25億円となります。

また、仮に工事が何らかの理由で赤字となることが分かった場合には、その赤字は進捗で分けずに全額が一度に計上されます。

この工事進行基準には、主に「収益総額」「原価総額」「進捗度」という3つの見積り要素が必要ですが、これらを操作することで、各年度の売上や利益を実際より大きくすることが可能になります。

②貸倒引当金

貸倒引当金とは、取引先や貸付先から将来どのくらい債権が回収できるかを見積り、あらかじめその債権を「仮に」減らしておく方法を言います。通常なら債権は全て回収できるものですが、相手の財務状況が悪くなるとこの減額を検討しなければならない場合が出てきます。この「仮に」減らしておく部分が「引当金」です(実際に貸し倒れが起きると、「貸倒損失」として処理します)。

例えば、10億円を貸し付けている先が経営不振で資金ショートを起こしそうな際、担保などを見積もっても3億円しか回収できない可能性がある場合、帳簿に計上した10億円はそのままで、負債の部に7億円の引当金を計上します。このネット額3億円が「回収見込み額」となり、引当金とした7億円部分は「費用(損失)」として利益を減らします。

この「回収可能性」は、「見積の見本市」とも言えるほどたくさんの論点があり、それぞれを操作すれば驚くほど大きな結果の差すなわち利益への影響となって現れます。

 

③税効果会計の繰延税金資産

税効果会計は相当難しい論点のようで、弁護士や企業経営者からもたまに「繰延税金資産って一体何?」なんていう質問を受けます。

会計の理論としては非常に複雑なのですが、シンプルに要点を説明しますと、以下の通りになります。

  • 会計で計算される「利益」と、法人税率を掛ける「所得」とは違うものである
  • その違いは、主に費用計上が認められるタイミングのズレによって生じる(たいていは会計の方が早く費用計上される)
  • 会計で費用を計上しても、法人税で費用計上が認められないとなると、認められない部分については、とりあえず先に法人税を払っておかなければならない
  • この「先に払った」法人税(これを法人税の前払と言います)については、将来費用が認められるまで会計上は費用として計上できない

上記の「法人税の前払」部分が、「繰延税金資産」と呼ばれているものにあたります(逆に法人税の未払に当たる部分が「繰延税金負債」です)。

支払った法人税から、会計上費用にできなかった部分、すなわち繰延税金資産にあたるものを差し引いた結果がその時期の税金費用となりますので、差し引いた分だけ税金費用が減り、利益を押し上げる訳です。

もちろん、問題となった支払などが将来会計上の費用として認められれば、対応する繰延税金資産は会計上その時の税金として計上されることになります。

ところがこの「法人税の前払部分」は、いつでも利益を押し上げる効果があるとは限りません。

法人税において認められなかった費用の計上が将来認められる時点で、もし企業が赤字と予想されたらどうなるでしょうか。

後で認められた費用が減らすべき法人税はそこになく、繰延税金資産として計上されていた法人税は「前払」としての意味を無くしてしまうのです。となると、前払という意味で計上された繰延税金資産は資産として扱うことは出来ず、利益を押し上げる効果もなくなってしまうのです。

この考え方を「繰延税金資産の回収可能性」判断と言います。この判断にも「将来の収益の見積り」という、非常に恣意性の入りやすい考え方が含まれています。

④退職給付会計

退職給付会計は、税効果会計よりさらに複雑な理論を抱えています。ですが、これもシンプルに説明するなら下記の通りになります。

  • 現在雇用している人たちの退職金(規定や年金の状態で決まります)が将来どれくらい必要かを見積り
  • それをきちんと払うには「現在」どれくらいの財産が必要かを見積もる
  • これらの見積りに基づいて、現在足りない部分については費用を計上しておく

ご覧の通り、退職給付会計には「将来の退職金」と「それを払うための必要財産」という2つの見積りが必要です。

前者については退職金支給方法や昇給率、退職率、死亡率などを使用して計算するため非常に理論的に難しく、絶対の正しさとは言えないものの、年金数理士(アクチュアリー)など専門家に依頼することで、ある程度恣意性を排除した計算が可能となっているようです。

後者において問題となるのが「割引率」と言われる論点です。

現時点で計算すると、退職金を支払うための財源が10億円足りないと計算された場合でも、必ずしも今すぐ10億円準備しておかなければならない訳ではありません。投資利回りや期間を考えると、今これだけ準備すれば将来10億円になっている、という金額(現在価値)が計算できます。

この現在価値を計算する際に必要となるのが「割引率」です。この割引率の決め方にも一定の基準があるのですが、少しの操作で極めて大きな影響を与えることができるため、要注意の要素と言えます。

⑤減損

企業が持っている資産は、基本的に「稼ぐため」にあります。株主や銀行などから得た資金は、期待される以上の割合(投資利回り)で稼がなければ、営利を目的とする企業が存在する意義の一つが大きく失われるからです。

しかし、投資した資産(工場や有価証券など)が期待した収益を上げる事が出来なくなってしまうと、その時点で資産の価値は大きく下がってしまいます。現在の会計は、そのような兆候がある場合には、予想される収益の低下に応じて、資産自体の金額を引き下げてしまい、その引き下げた金額を損失として計上するように求めています。

これが、減損と言われるものです。

この「減損の兆候」を判断する際や、「予想される収益の低下に応じた資産の減額」を計算する際にも、会計上の見積りが大きく影響します。収益の低下を小さく見積もることができれば、大きな減損損失計上を回避できる場合があるからです。

その他、会計上の見積りが影響する分野は、減価償却計算、担保等で受け入れた資産の帳簿価額、各種引当金、リース資産の現在価値、市場価額のない有価証券の時価や国際会計基準における公正価値などたくさんあります。

4.監査役等の役割と対応

①監査役等と会計上の見積りの監査

会計上の見積りの計算には、経営者の意思決定や将来の見通しに基づく判断部分が大きく影響するので、場合によっては以下のような問題が発生します。

  • 会社の業績に与える影響が重要な場合、経営者の恣意性によって見積りがゆがめられやすい
  • 経営者は内部統制を無効化できるため、従業員を対象とした領域における内部統制システムの整備は、会計上の見積りを利用した会計不正には意味をもたない場合が多い

となると、会計上の見積りを悪用した会計不正に立ち向かうためには、経営者と直接対峙する権限や姿勢が必要となるのです。

このことから、たとえば監査法人等の会計監査人は、単に会計上の見積りの合理性を監査するだけではなく、「経営者が会計上の見積りを行う際に使用した重要な仮定が合理的であると判断しているかどうか」を「経営者確認書」という文書によって確認し、一定の牽制を掛けることにしています。

 

しかし、会計監査人は常に会社の内部と接触している訳ではありませんし、基本的には資料調査や従業員等へのインタビューのみに基づいて行われる会計監査で、経営者の意思が強く働く会計上の見積りを悪用した会計不正に100%対応など出来るものではありません。

また会計上の見積りに会計監査人が疑義を持ったとしても、経営者からある程度の外見的合理性をもって説明されたら、それを明らかに否定するだけの強い反証を用意することは極めて難しいのです。

また残念ながら、公認会計士たちも「不正」に真正面から対峙するようになってまだ日が浅く、対応が発展途上なのです。(「不正事例の研修を会計士に義務化 公認会計士協会 関根新会長」日経新聞記事)。

ここで私は、監査役等の役割がさらに重要になってくると考えています。

監査役等は、取締役会を筆頭に社内の重要会議に出席していますし、また通常は経営トップ層とも密なコミュニケーションを取っています。

このような立場に居る監査役等は、会計上の見積りを悪用しようとする兆候を最も早く感じ取ることができると言えます。

逆に、「対応しなければならない」という考え方もあります。

私のように会計が専門(公認会計士)である監査役等は言うに及びませんが、会計の専門家ではない方であっても、会社法における責任は専門家である者と変わらないと言われています。「私は会計の専門家ではないから分からない」と言っていてはいけないのです。

②監査役等の対処法

とは言ったものの、会計の知識なく会計の、しかも最も難しい分野の一つである「会計上の見積り」について、その合理性に関する判断を下すのはとても困難であるのも確かです。

そこで、そのような監査役でも対応が可能な方法をいくつかご紹介、ご提案してみます。もちろん方法はこれだけではありませんが、是非ご自身の能力をフルに発揮して対応してみて下さい。

a)トリガーを探る

会計上の見積りが必要となるシチュエーションには、往々にして「将来の損失発生可能性」がついて回ります。例えば、リストラ、投資の損失、退職金、貸し倒れなどがそれに当たります。

このような損失の発生可能性は、経営者をして会計上の見積りをゆがめさせる、悪いモチベーションとなり得ます。
そこで、監査役等は「近い将来損失になりそうな事象の発生可能性」について常にアンテナを立てておく必要があります。

もちろん、その事象がどれだけ損失を生むかという定量的な影響については、会計の知見を持つ監査役等、監査法人と協議することが必要です。

最も強力な情報源は「取締役会」や「重要会議」におけるやりとりですが、これ以外にも業界や競争相手の動向、場合によっては取締役以外の現場職員からの情報なども有用となる場合があります。

b)「質問力」を磨く

良い質問が出来る人は、良い情報を引き出せるだけではなくその場の状況をコントロールできます。会計上の見積りに対処するためにもこの力が非常に重要です。

例えば、「この債権の回収可能性は甘過ぎるじゃないか!」と断定的に指摘したとしても、先に書いた監査法人への対応と同様、専門的で一見合理性のある説明がなされたら、それを覆すだけの反証を用意することは素人にとって簡単ではありません。

これに対して、「この債務者の財務状況はどうやって調べましたか」「担保価値はどのように評価しましたか」「返済に回せるキャッシュフローはどうやって計算しましたか」「その確実性はどうですか」など、回収可能性を検討するに至った過程やその判断根拠について質問し、質問それぞれや他の状況との矛盾を探る方法は、相手に問題を自らさらけ出させる方法として有効です(また、これらの質問と回答を正しく記録しておけば

万が一会計不正が発生した場合、自らが善管注意義務を果たしたことを立証できる証拠となり得ます)。

このような質問は会計的な知識がいると思われがちですが、一般的な経営者としての常識、リスク認識があれば十分に可能です。また、監査法人や会計の知見ある他の監査役等にアドバイスを受けても良いでしょう。

c)気兼ねしない

ここが一番大事な所です。
法律や会計の知見ある監査役等がそれぞれ法律、会計に関する質問、指摘をする場合はともかく、専門外の方が会計上の見積りに関係する質問をした場合、往々にしてあるのが

  • 「この業界は普通こうですよ」
  • 「○○と比較しても妥当だと思います」
  • 「専門外なんだから黙ってろ」

といった反応です。

専門外で分からないことも多い場合には、こういう切り返しをされるとそれ以上の突込みを躊躇してしまいがちですが、そこで引いてしまってはいけません。

上記のような対応があること、それ自体が問題の所在を認識していることの表れとなっている可能性もあるのです。

もし問題がないのならば、専門外の監査役等にもわかる客観的・合理的な説明を行うべきですし、それをせず押し通そうとする場合には、妥協せずにわかりやすい説明を求めるべきです。

d)監査法人との連携

会計監査を担当する監査法人は会計のエキスパート中のエキスパートですが、上記の通り経営者から「ある程度幅を持った」合理性を説明されたら、それを完全に否定する反証を出すことは困難です。

このような点を補完し、監査上のリスクを減殺できるのが監査役等の存在であるとも言えます。

通常、監査役等の監査は原則として「相当性」監査(会計監査人の監査結果を相当と認める)ではありますが、それ以前に不正発生リスクを見出し、あらかじめ減殺しておく機能は監査役等にしか期待できないのです。

5.終わりに

会計監査人の監査も監査等委員の監査も同じなのですが、監査の本質的目的は「監査意見を出すこと」ではありませんし、「不適正、不適法意見」といったダメ出しをすることでもありません。

監査を進めていく上で、その監査の目的に応じて適切な経営、情報開示を行っていく体制が整備されていくようリードしていくことが一番の目的なのです。その結果として出されるものが監査報告であると私は考えています。

このために、監査役等は普段からアンテナを十分に張って適切な質問力により情報収集し、目立たず静かに平時のガバナンスを支える役割を果たすべきであると思います。

会計上の見積りが急激にそのリスクを増すのは、会社が業績落ち込みの階段を一段でも降りはじめた時、経営者がそれと気づかずに追い込まれ始めた時です。

如何に初動で止めるか、平時にその芽を摘み取っておくかが非常に重要です。

偉そうなことを書いてしまいましたが、このコラムが「ガバナンス強化」の時代を生きる監査役等の皆さんの参考になれば幸いです。

 


いわゆる「相続税対策」や「事業承継対策」の仕事をしていますと、資産家や経営者の方々から「出来るだけ子供たちには公平に資産を分けたい」というご意向を伺う時が良くあります。

この「親が子を思う気持ち」、大変良くわかるのですが、悲しいことに相続において「絶対的公平」は不可能だと思って頂いた方が良いのです。

この記事に置いては、何故それが不可能かについて説明し、どのようにすれば「公平」が実現できるかについて述べてみたいと思います。

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1.財産分けの難しさ

相続において重要な「財産分け」。

この財産分けに置いては、よく「争族」と呼ばれるように揉めることが少なくありません。

なぜ単に「分ける」ことがそれほど難しいのでしょうか?

それは、相続をとりまくさまざまな法律や実務が極めて大きく影響しています。

 

今、100万円の預金があるとします。これをあなたとご友人の2人で「公平に」半分ずつ分けて下さい、と私が依頼した場合、あなたならどのように分けるでしょうか?

この場合は、当然ながら「50万円ずつ」が正解ですね。

しかし、同じ100万円であっても、一株の時価が現在100万円の株式ならどうでしょうか?

真っ二つに切り裂くわけにもいかないし、さりとて一人が一株を手に入れてしまえば、もう一人が受け取る分は無くなります。

このような場合、少し考えれば「株式を売却して現金化し、50万円ずつ分ける」ならば公平を保ったまま分けることが出来ると気づくかもしれません。

ではさらに、「その株式を現金化してはならない 」という条件が与えられた場合にはどうでしょうか。

幸運なことに、世の中にはこの問題に対する答えがきちんと用意されています。

株式をもらった側は、自らの手持資金から50万円を支出し、株式をもらっていない側に渡せばいいのです。

この場合、手持資金がなければ50万円を借りて支払ってもかまいません。なぜなら、手元には100万円相当の株式があり、50万円の借金が出来たとしても差引50万円の財産増加には変わりないからです。

ここでは、あなたが株式を受け取り、すぐに現金が必要であった友人はあなたから50万円の現金を受け取ったと仮定しましょう。

 

これで公平に分割が出来た、と思っていたあなたと友人は、後にそれが誤っていたことに気づきます。

というのも、この株式会社がその後すばらしい新技術を開発し、その技術を利用した製品の市場があまりに大きいため株価が一度に100倍になってしまったのです。

つまり、あなたの友人は50万円の現金しか手に出来なかったのに、あなたは一躍1億円(彼に先に50万円を支払っているから、正確には9,950万円)の価値ある資産を手に出来たことになります。

そうなれば、「損をした」友人はおそらく黙っていないでしょう。あなたの幸運をうらやみ、何がしかの補償を要求するかもしれません。分割時点では公平でも、結果として「公平」とはとてもいえない結果となったのですから当然とも言えます。

それに応じるかどうかはあなた次第ですが、いずれにせよあなたと友人の仲が悪化しないことを祈るばかりです。

さて一体、「公平な分割」とは何だったのでしょうか?

 

2.相続における財産分け(遺産分割)

このような問題は、当然ながら相続の現場において頻発します。

分割が「著しく不合理」であった場合には分割をやりなおすことも認められていますが、単に不動産の収益性の見込み誤り等による不合理については、そのような分割のやり直しを認められていません。

このような問題が起こる理由は、それほど複雑ではありません。

単に民法(相続法)、税法(相続税法)、経済実態(見込も含む)によって、全く「公平」の概念が異なるからなのです。

 

民法上の公平は、「相続が発生した時点の時価」によって評価した財産を公平に分割することにより実現できます。この民法の考え方が最も私たちの常識に近く、一般的であると言えます。

しかし経済実態上の公平は、その時点での時価評価だけを考えていては実現できません。

将来についても予測可能な範囲で考慮することが必要となります。
先の例で言えば、分割する時点で件の新技術の開発が実現していたならば、その果実を見込んで発生した株価上昇による利益の一部はあなたの友人にも当然与えられるべきであるとも言えます。

 

税法に基づいて公平を考えた場合には、民法の考え方とほとんどの場合同じ考え方となります。

なぜなら、相続税が課税される財産を計算する際は、原則として民法と同様に時価を採用するからです。

しかし、税法には他と大きな違いがあります。それは税法上の優遇措置などの政策的項目です。

一般的なものは下記の通りです。

 

・  小規模宅地等の評価減…居住用、事業用の宅地については大幅な減額が認められる

・  基礎控除、生命保険料控除…相続人数に応じて、非課税となる金額が増加

・  配偶者の税額控除…配偶者の相続分は、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方まで非課税

・  株式の評価手法…同族株主グループかどうかによって大きく時価が異なる

 

これらは、当然ながら時価で計算した結果との乖離を生み、当然ながら相続税額の計算にも影響を与えます。たとえば、配偶者の税額軽減など相続財産の配分方法によって税額そのものが変わってくるような制度の場合であると、民法上の公平を実現しても、税法上はもっとも税額を圧縮したとはいえなくなる場合が出てきます。

 

3.財産分け時の配慮

同じ「財産を分割する」ということであっても、法律等の考え方の違いで大きな差が発生することが分かって頂けたでしょうか。

当然ながら、民法、税法、経済実態のうちひとつの考え方だけを採用して分割を決定した場合、税金面で割高となったり、損をした(と感じる)他の相続人等から異論が出て来る可能性は高くなります。

財産分けを行う場合にはこれらのうちどの考え方を採用するかについて常に注意を払い、各相続人等に納得してもらう必要があります。

この納得してもらう方法にはいろいろありますが、やはり一番は被相続人となる予定の方(親など)が相続人となる予定の方(推定相続人)対してきちんと説明しておくことが大事です。またこれらを遺言によって説明しておくことも大変効果的です。

(参考:事務所ブログ 「遺言を書こう」

もちろん相続税を計算するわれわれとしても、分割の決定まではこれらを出来るだけ詳しく、わかりやすく説明することが不可欠であると考えています。

以上


日本は技術大国でもありますから、特許などの知的財産を保護、活用することは大変重要です。

自分の発明を特許にしたものや他から買った特許をライバルの侵害から守る、ということも重要な知財財産の保護なのですが、最近は新たな権利保護の論点が重視されています。

そのうちの一つが「職務発明」と呼ばれる分野です。職務発明とは、会社等に努める従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成した発明のことを言います。

この職務発明について、昨年特許法が改正されて、この4月1日から施行されることとなりました。 今回はこの特許法改正について説明します。

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1.特許法

特許が「発明で大儲け」の為にあると思われることが多いのですが、本質的な目的は違います。 特許法が冒頭の第1条で、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」としている通り、特許はまず産業の発達を目的としているのです。 このため、特許の権利者はもちろん一定期間保護されるのですが、その代わりに特許の基本となった技術を世界中に公開しなければなりません。公開と保護を組み合わせることで、産業の発達を促進するのです。

 

2.職務発明

さて、現代の製造業はどこも大規模化していますから、発明と言ってもほとんどが会社等の組織で行われたものとなっています。この場合、ほとんどの発明は、会社等の従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成することになります。 今回説明する職務発明とは、まさにこのことを言います。

ノーベル賞受賞で有名となった「青色発光ダイオード」に関する発明も、発明者と会社等との間で「職務発明かどうか」が争われ、大きな金額について争う訴訟(中村訴訟)となりました。

 

3.従来の取り扱い

では、なぜ「職務発明かどうか」が争いとなったのでしょうか。

従来、特許法は職務発明は「発明した従業員に帰属する」と定め、会社等はこの特許について「通常実施権を有する」とだけされていました。

通常実施権とは、その特許を使っても良い、という権利で、「専用実施権」とは違って排他性がありません。 しかも、会社等がその権利を発明した従業員から譲り受けようとすると「相当の対価」を支払う必要があります。

中村訴訟の場合は、「職務発明かどうか」「職務発明の場合に会社が譲受けていたかどうか」「相当の対価はいくらか、受け取っていたか」が論点になっていました。また相当の対価の計算についても、計算方法によって大きなばらつきがみられました。 このように、従来は会社等が権利関係を明確にして保護しようにも従業員から譲受ける必要がありましたし、相当の対価についても不安定であるということから、知財経営の側面から見て不確定要素が多く問題とされていました。

 

4.改正特許法の取り扱い

そこで、権利帰属や支払対価の不安定性を解消するため、改正特許法において以下の点が改正されます。

  1. 契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ会社等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から会社等に帰属するものとする。
  2. 従業員は、特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとする。
  3. 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとする。

上記の「相当の金銭その他の経済上の利益」については、例えば法人負担による留学の機会付与や、ストックオプション、昇進昇格による給与増加、特別休暇の付与などが含まれます。

なお、会社等が従業員に対してあらかじめ①の定めをしていなければ、従来通り特許は従業員に帰属することとされました。

 

5.今後の論点

特許法改正で権利帰属の問題についてはある程度整理されたと思いますが、他方「対価」や「利益」については引き続き問題が残ります。

この対価、すなわち「いくらになるか」の計算は、実は非常に難しい実務です。 特許をはじめとする知的財産は、物理的な財産と違って100%人間が作り出したものですから、物理的な財産のように度量衡で量ることが出来ないのです。

また、含まれている技術も百者百様ですから、標準的な計算方法が明確に定められている訳ではありません。 今回の特許法改正で、従来にも増してこの「いくらになるか」の計算が重要になってくるものと考えています。


1.監査等委員会設置会社制度
改正会社法が平成26年に可決、成立しましたが、その中に「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれました。
この制度をざっくりと説明すると、過半数が社外(従業員等ではなかった者)である3名以上の取締役で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査することを言います。

これを受けて、ここ1年ばかり上場会社において監査役会制度から監査等委員会制度に移行する会社が相次いでいます。
これは、上場企業における社外取締役の設置が事実上義務化された(「Comply or explain」ルール)ことから、監査役制度に加えて社外取締役を置くより、社外監査役を社外取締役にスライドさせてこの要件を満たしておけば合理的である、という判断が働いているものと言われています。

では、監査等委員会設置会社制度は具体的にどんな特徴を持つでしょうか。会社法の条文から拾い上げると下記の通りとなります。

  1. 監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(327条5項)。
  2. 監査役を置いてはならない(327条4項、5項)。
  3. 監査等委員取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任する(329条2項)。
  4. 監査等委員取締役の報酬等は、他の取締役の報酬等とは区別して、定款または株主総会の決議によって定める(361条2項)。
  5. 監査等委員会は、監査等委員である取締役3名以上(過半数が社外)で組織され、監査等委員は、取締役でなければならず、かつ、その過半数は、社外取締役でなければならない(331条6項)。
  6. なお、常勤の監査等委員を置くことは義務付けられていない(監査役における390条3項に該当する記載なし)。
  7. 監査等委員取締役の任期は2年(短縮不可)であるのに対し、他の取締役の任期は1年(定款または株主総会決議により短縮可)である(332条3項、4項)。
  8. 監査等委員会は、監査等委員取締役の選任に関する議案の提出について同意権を持つ。また、監査等委員取締役は、監査等委員取締役の選任等に関して意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第1項、4項、344条の2第1項、4項)。
  9. 各監査等委員は、株主総会において、監査等委員取締役の報酬等について意見を述べることができる(361条5項)。
  10. 監査等委員会が選定する監査等委員(選定監査等委員)は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる (361条6項)。
  11. 監査等委員以外の取締役との「利益相反取引」について、監査等委員会が事前に承認した場合には、取締役の任務懈怠の推定規定を適用しない(423条4項)。
  12. 監査等委員会設置会社の業務を執行するのは、代表取締役または業務執行取締役(363条1項各号)であり、執行役は設置されない(399条の13第3項)。
  13. 業務執行の決定
    1)監査等委員会設置会社の取締役会は、362条4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
    2)1)にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。
    また 1)及び 2)にかかわらず、重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(399条の13第4項、5項、6項)。

2.具体的に変わったところ、変わっていないところ
これらの条文を読んだり、運用の現場にあてはめると、どうも次のような捉え方をしておくことが妥当なようです。
①監査役の権限、立ち位置との違い

  • 監査役の権限は原則そのまま有する
    従来の監査役の権限そのもので本質的に変更されたものはなく、監査を行う上での権限は原則としてそのままスライドしていると考えて良さそうです。但し、任期は4年から2年に短くなっています。
  • 独立性も原則そのまま維持
    選任、報酬決定、会計監査人に関する議案等がほぼ同じ
  • 但し「独任制」は否定されている
    監査役は監査役そのものが監査を担う会社の機関として定義されていました(監査役が単独で監査活動が出来た)が、監査等委員会は「監査等委員会として」監査を行うことになります。
  • 常勤の設置義務なし
    ここが非常に大きな違いです。監査役制度においては常勤監査役の設置が義務付けられていましたが、監査等委員については常勤を「置かなくても良い」ことになっています。
  • 議決権を持つ
    最大の権限強化と言えます。議決権の行使は会社のガバナンス強化に大きく影響します。

②監査業務への影響
常勤の設置義務がないことで、これまで行ってきた監査役監査からアプローチが少し変わってくると考えます。
例えば、常勤監査役が重要会議に出席するなどして収集してきた情報が、たとえば「監査等委員会室」などのサポート部門や内部監査部門の情報を利用することで集められることになります。加えて監査役監査が独任制も合わせ「直接的」に監査していた状態と少し変わり、監査等委員会による「モニタリング」に重点を置いた監査が主となると考えます。

また、取締役として議決権を持つことから、監査役が行っていた「適法性監査」に加え「妥当性監査」も監査すべき領域であるとされています。
妥当性まで監査の範囲に含まれるのであれば、監査等委員取締役は単純に「問題や間違いを是正する」というスタンスから、一種「投資家」としての視点に切り替えが必要なように思います。また、経営上のリスクマネジメントについても、十分に行われているかをチェックする必要が出てくると思います。

このような方向性は簡易版「執行と監督の分離」とも言えのですが、実際の所執行部門と監査部門の分離は設計上不十分であり、運用でカバーする必要があります。この点、今後監査等委員会設置会社制度が普及するにつれ、実務の積み重ねが重要となってきます。

3.株式会社ロックオンの例(強固なガバナンスを目指して)
私(塩尻明夫)が現在社外取締役(監査等委員)に就任している「株式会社ロックオン(東証マザーズ)も、平成27年に監査等委員会制に移行しました。ただ、当社の場合はいわゆる「監査役会スライド」で社外取締役の員数を満たすために移行したのではありません。

もともと当社は、監査役の他に上場前から社外取締役を設置しており、いわゆる「Comply or explain」ルールに悩む必要がないガバナンスを整備していました。
このような当社が監査等委員会制度に移行したのは、上記でご説明したような特徴のうち、ガバナンス強化というメリットを享受するためです。

結果として、当社は取締役7名のうち4名が社外となりました。内訳は、執行取締役が創業メンバーが3名、監査等委員以外の社外取締役が公認会計士であり上場企業取締役経験者、また監査等委員取締役が、それぞれ企業経営経験者、弁護士、公認会計士という構成となっております。
就任している企業ではありますが、当社の経営陣は現在の規模で実現し得る最も強固なガバナンスを実現していると言っても良いと思います。

なお、移行と同時に常勤監査担当取締役を設置しなくなったことによるデメリットには、モニタリングの強化、内部監査体制の再整備などで対応することとしています。

以上


はじめに
医療法人制度は、医療事業を法人組織化することにより、その運営に安定性、持続性をもたらすことを目的として作られました。昭和25年に始まった医療法人制度も、幾多の改正を経て「一人医療法人」制度の導入や「持分の定めのない医療法人」など、現在の制度に至っています。
この医療法人制度、本質である「非営利性」や、「医療法による規制」などはもちろん重視すべきなのですが、広い意味での経営安定につながる「税制上のメリット」や「医業継続上の有利性」など、小規模な診療所でも活用すべき論点がたくさんあります。
この記事は、特に「一人医師医療法人」に焦点を当て、メリットやデメリット、そして少々難しい注意点について簡単に説明します。
分量が多くなりますので簡単な説明に留めますが、ご興味がおありの方は是非事務所までお問い合わせ下さい。

1.一人医療法人のメリット
①個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
②法人税の実効税率が低いため、所得税よりも通常課税が小さくなります。また理事長先生の給与には「給与所得控除」が適用され、必ず節税になります。
③理事長家族への所得分散が容易になり、個々人の所得税・住民税の税率が下がることで節税ができます。
④理事長先生に支払う退職金を、法人の損金として計上することができます(個人は不可)。また退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
⑤個人はわずかな控除しかできない生命保険料などを、損金に計上できます。
⑥交際費や車両関係費に対する扱いが緩和されます。例えば、個人時代に使用する車両関係費はその10%~50%について家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければなりませんが、法人名義の車両は原則として全額経費になります。
⑦欠損金の繰越が9年間認められます(個人だと青色申告で3年間、平成29年4月1日以降はさらに10年と伸びます)。
⑧持分がないため、相続対策がやりやすくなります。
⑨法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなり、資金繰りが楽になります。
⑩将来に後継者がいなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済みます。
⑪別の医師に医療法人を低い税負担で譲渡することができます。

2.医療法人のデメリット
①交際費の一部が損金不算入となります。但し法人税法の改正により、事実上問題とはならなくなりました。
②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加します。
③設立に関しては、かなり複雑な手続(届出や登記)が必要となりますので、院長先生ご本人や事務長さんが行うことはほぼ不可能です。
④医業専門でない税理士先生が担当している場合、同様に手続が難しく、失敗してしまう場合があります。特に、登記申請や保健所、施設認定などの届出タイミングを誤ると、一時的に社会保険診療が出来ない(請求できない)といった、冗談では済まないトラブルも発生する場合があります。

3.法人成りによる一人医療法人の設立認可申請に係る必要書類(一般的なもの)
・医療法人設立認可申請書
・定款
・設立時の財産目録、各内訳明細書
・負債の残高証明及び債務引継承認書(負債を引き継ぐ場合)
・設立決議録
・診療施設の概要
・不動産賃貸契約書
・役員就任承諾書及び履歴書
・印鑑登録証明書
・管理者就任承諾書
・医師・歯科医師免許証のコピー
・社員及び役員の名簿
・基金の募集に関する書類
・登記事項証明書
・賃貸契約の引継承認書、賃貸契約書(不動産、リース等)
・原本証明

4.注意点
①医師国保、歯科医師国保
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)
医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、「個人時代に医師国保に加入している場合」は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ますが、医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。

②法人のお金は、院長の自由にはならない
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
また、全く同じ効果を持つ費用でも、理論的・実務的に法人と個人で経費になるかどうかが異なる場合があります。この点についても、常に相談できる専門家を持つことが必要です。

③届出・登記などの手続きが発生する
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生します。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となります。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。

④配当禁止のため持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
平成19年3月以前に設立された医療法人は出資持分があり相続税が課税されますので、この対策(増加を押さえたり、持分のない医療法人に移行するなど)は必須です。

⑤解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

⑥各都道府県ごとに、実施すべき手続や提出書類、スケジュールがかなり異なっています

⑦個人時代の借入金は全て引き継げません。法律上は「設備に関する借入金に限る」とされているのですが、実際の運用は都道府県によって異なります。

⑧その他
これら以外にもたくさんあるのですが、分量が多くなりますのでリストしておくに留めます。検討される際は、専門的に知識や経験のあるコンサルタントへ必ずご相談ください。

・役所窓口とのコミュニケーションは綿密にとっておく
・移行資産負債の検討は厳密に
・銀行等への確認書は、出来るだけ早めに出しておく
・理事捺印なども早い目に対応しておく
・登記完了報告書や、銀行の手続、資金繰りその他 設立認可、登記後も気を抜けない

以上


1.はじめに

平成25年度税制改正により相続税法(及び租税特別措置法)の一部が改正されました。これらの改正のうち、平成27年1月1日以降の相続等から適用されるものについて解説します。

 

2.遺産に係る基礎控除

相続財産が「基礎控除額」を超える場合、原則として相続税の申告をする必要がありますが、その基礎控除額が、次のように4割減とされました。

<改正前>5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
<改正後>3,000万円+ 600万円×法定相続人の数

 

3.相続税の税率構造

相続税額は、①課税価格の合計額から上記の基礎控除額を控除した金額である課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定した場合の各取得金額に対して、②超過累進税率により税率を乗じて算出し、③各取得金額に対する②を合計して計算します。

今回の改正により、この税率構造の一部について次のように変更されました。

法定相続分に対する取得金額

改正前

改正後

税率

速算控除

税率

速算控除

1000万円以下

10%

0万円

10%

0万円

3000万円以下

15%

50万円

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

30%

700万円

2億円以下

40%

1700万円

40%

1700万円

3億円以下

45%

2700万円

6億円以下

50%

4700万円

50%

4200万円

6億円超

55%

7200万円

例:基礎控除後の相続財産が9億円で、相続人が子供ばかり3人の場合、相続税額は以下の通りとなります。

 ①課税遺産総額90000万円÷3=30000万円(一人当たり)
 ②一人当たり税額
 (改正前)30000万円×40%-1700万円=10300万円
改正後)30000万円×45%-2700万円=10800万円
 ③合計税額
 (改正前)10300×3=30900万円
 (改正後)10800×3=32400万円

(参考)贈与税改正

 

改正前

改正後

直系尊属→20歳以上

基礎控除後金額

税率

控除額

税率

控除額

税率

控除額

 200万円以下

10%

10%

10%

 300万円以下

15%

10万円

15%

10万円

15%

10万円

 400万円以下

20%

25万円

20%

25万円

 600万円以下

30%

65万円

30%

65万円

20%

30万円

 1000万円以下

40%

125万円

40%

125万円

30%

90万円

 1500万円以下

50%

225万円

45%

175万円

40%

190万円

 3000万円以下

50%

250万円

45%

265万円

 4500万円以下

55%

400万円

50%

415万円

 4500万円超

55%

640万円

例:1500万円(基礎控除後1390万円)の贈与をした場合、税額は以下の通りとなります

改正前                 1390万円× 50%-225万円=470万円
改正後
 親など→20歳以上の子 1390万円× 40%-190万円=366万円
 上記以外         1390万円× 45%-175万円=451万円

 

4.税額控除

①未成年者控除

相続開始時において相続人等が未成年者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する未成年者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (20歳一相続開始時の年齢)×6万円
<改正後> (20歳一相続開始時の年齢)×10万円

 

②障害者控除

相続開始時において相続人等が障害者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する障害者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (85歳一相続開始時の年齢)×6万円(特別障害者は12万円)
<改正後> (85歳一相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)

 

5.小規模宅地等の特例

①特定居住用宅地等の限度面積の拡大

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものについては、特定居住用宅地等として宅地等の面積のうち限度面積までの部分に相当する金額の80%相当額をその宅地等の評価額から減額することができますが、この限度面積が、次のように拡大されます。

<改正前> 限度面積…240㎡
<改正後> 限度面積…330㎡

 

②居住用と事業用の宅地等を選択する場合の限度面積の拡大

特定居住用宅地等と特定事業用等宅地等を併用選択する場合の限度面積について、次のように拡大されます。

<改正前> 特定居住用宅地等…240㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計400㎡(注)まで適用可能 (注)一定の面積調整が必要
<改正後> 特定居住用宅地等…330㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計730㎡まで重複適用可能

 

6.まとめと対策

  • 基礎控除の減額で影響を受ける層…生前贈与、保険の活用、小規模宅地特例の適用による対策
  • 税率の一部アップで影響を受ける層…相続時精算課税や事業承継税制の活用、小規模宅地特例の重複適用による対策
  • 共通…事前準備、遺言作成、株価や不動産対策検討の重要性 

    以上

 


1.病院の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。
(1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
(2)不正を行うことができる「機会」
(3)不正を行うことが本人にとって「正当化」
これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。

4.病院における不正の例

①横領

  • 窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ
  • 自動販売機等売上金の横領
  • 医薬品の横流し

②キックバック

  • 医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける

③不正経理

  • 横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する
  • 架空人件費

5.防止対策

  • 不正のトライアングルの把握
    職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。
  • 病院向け内部統制の整備
    病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。
  • 内偵調査、尋問
    残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。
  • 税務調査の利用
    税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら

6.お問い合わせ、ご相談、料金
個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

私どもは、企業の公認会計士監査や内部統制構築、不正防止・調査の実績、また認定登録医業経営コンサルタントの実務経験を生かし、これらの不正リスクを低減する体制構築のお手伝い、また不正調査を行うことが可能です。
病院における不正防止にご興味のある方、また、残念ながら不正が疑われる事実や情報が現時点で顕在化している医療機関におかれましては、是非お気軽にご相談下さい(ご相談は無料)。

以上


医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団(医療法の定義)」を言います。
医療自体は医師等の専門家が行うべきものですが、病院のように大規模な組織や施設をもつ場合には、個としての活動には限界があり、組織経営が必要となってきたことから定められた制度です。

この「医療法人」制度は、昭和25年に始まり、その後昭和39年の「特定医療法人」制度や、昭和60年の「一人医師医療法人」制度など、変遷を経て現在に至っています。

さて、現在存在する医療法人の多くは、平成19年4月1日より前に設立された「出資持分(株式のようなもの)あり」法人となっています。
現在この「出資持分のある医療法人」の新規設立は認められておらず、「経過措置(型)医療法人」と呼ばれています。

これらの法人の出資持分には財産価値があります。このため、出資持分には以下のような問題が発生します。

  • 出資割合に応じて純資産の払戻しを請求できる
    →医療法人の資金が激減し、資金繰りを圧迫する可能性がある
  • 出資者が死亡した場合、相続財産となる(時価評価は株式等に準じて行われます)
    →換金できない資産(持分)に高額な相続税が課税される
    相続税の概算についてはこちら(相続税の概算)をご覧ください
  • ある出資者が持分を放棄した際、他の出資者持分の価値がその分上がったものとして、他の出資者に「贈与税」が課税される

このような問題を回避する手段として「出資持分なし医療法人」への移行という手続が準備されています。
この手続は、出資者が自分の出資持分を放棄することで、上記のような問題を解決することを目的としています。
(※もちろん、こういう問題に心配が要らない場合、持分ありのままでも問題ありません)

この「出資持分なし医療法人」への移行を促進するため、厚生労働省は 「認定制度」を作りました。
認定制度の流れは、以下の通りです(厚生労働省資料より )。

この制度の特徴は、以下の通りです。

  • 認定を受けると、上記の問題点で説明した「贈与税」「相続税」の納税が猶予されます
  • 認定の日から3年以内に出資持分が放棄され、持分のない医療法人になると、猶予された税額が免除されます

なお、出資持分の免除により、免除した者の相続税や贈与税が不当に減少すると認められる場合(相続税法66条④)の「法人に対する贈与税課税」は、依然としてのこっています。この課税がなされないためには、運営組織の適性性や法人の社会的存在としての認識など、いくつかの要件を満たす必要があります。

出資持分は財産であるとともにオーナーシップの源泉であり、これを簡単に放棄することは医療法人の経営に悪影響を与えるかもしれないという懸念をお持ちの方も多いと思います。
この考え方は間違っている訳ではありませんが、他方多くの医療法人が抱える純資産は、前述のような金銭的問題を必ず生みます。
財産的オーナーシップの消失は、人的なオーナーシップ(ガバナンス)などでカバーすることも可能ですので、経営体制の強化とともに、ぜひこの認定制度を活用し、持続的な病院・診療所経営が可能となる体制を整えて頂きたいと考えております。