Archive for 1月, 2011

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

「公認会計士が解説する民事再生手続」コラムは、今回が最終回となります。

5.その他の論点

1)税務の観点

民事再生業務の本質は「再生計画案」の策定や決議、履行にありますが、実はその中枢には税務、特に法人税の税務に関する論点がたくさん含まれています。メジャーなものは以下の通りです。

  • 債務免除益課税とタックスプランニング
  • 期限切れ欠損金控除(民事再生の特例)→期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して控除可能(平成17年からは一定の私的整理でも可能となった)
  • 資産の評価損計上(民事再生の特例)→財産評定結果の損失を損金化可能
  • 青色欠損金の繰戻控除(民事再生の特例)→申立前2期間まで可能

2)破産への移行について

再生手続開始の申立の棄却、再生手続廃止、再生計画不認可または再生計画取消の決定が確定した場合において、裁判所は、当該再生債務者に破産手続開始の原因となる事実があると認める時は、職権で、破産法に従い、破産手続開始の決定をすることが出来ます。

また一旦否決されたあと期日が続行できない場合、また続行してもなお否決された場合には、再生手続が廃止される場合があります。手続が廃止されると、原則として裁判所によって破産手続に移行されることになり、やはり破産宣告を受けます。

3)詐欺再生罪について

民事再生法における罰則はいくつかありますが、今回は詐欺再生罪のみ取り上げます。

再生手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で次の行為をなした場合、再生手続開始の決定が確定した場合には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれが併科されます。

  1. 債務者の財産を隠匿し、または損壊する行為
  2. 債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為
  3. 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
  4. 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為(事情を知りながらその行為の相手方となった者も同様に処罰される)

4)不正への対応

民事再生に限らず、破綻状態にある企業やその経営者は追い込まれていますので、どうしても不正に手を染める可能性が高くなります。取込詐欺的な行為はもちろん論外ですが、通常は経営者が個人保証によって自己破産を余儀なくさせられるケースがほとんどであるため、資産隠しを図る場合があります。

自分自身が関与した業務にも幾つか事例があるのですが、守秘義務あるのでこのコラム上は和光電気の例を挙げます。

和光電気と鎌田社長は4月28日、民事再生法適用を大阪地裁に申請し、財産保全命令を受けた。調べでは、鎌田社長は申請前の4月中旬、同法適用申請が避けられないことを認識しながら、個人所有の6種類の株券約3万株(二千数百万円相当)を証券会社から引きだして自宅に隠した疑い。

和光電気は58年設立。近畿地方を中心にチェーン店を展開し、2000年3月期には1262億円の売り上げがあった。しかし、個人消費の低迷や関東系大型店の進出による競争激化などで経営が悪化し、民事再生法の申請に追い込まれた。

鎌田社長は同社の負債総額約300億円のうち約220億円について個人で債務保証していた。 (2003/06/30 17:16 朝日新聞)

以上

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皆さん、あけましておめでとうございます。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。
今年もよろしくお願い申し上げます。

前回は民事再生申立側の手続についてご説明しましたが、今回はこの手続をチェックする、監督委員側の実務について解説します。

4.監督委員側の実務

1)監督委員

民事再生法の特徴の一つが、この監督委員の制度だと思います。民事再生手続において監督委員は通常必ず選任され、再生手続が適正に行われているかどうかについて検討、意見書を作成します。

具体的には、下記のような業務を行います。

  1. 再生手続開始の申立について、そもそも手続を開始して良いのかどうかについての意見を述べる
  2. 開始後の申立企業の財産処分や業務遂行の監督
  3. 業務状況及び財産状況の調査
  4. 不公正な弁済や財産処分があった場合の否認権の行使
  5. 申立企業が作成した再生計画案についての意見書の作成
  6. 再生計画案が承認されたときに申立企業が計画通り履行しているかどうかの監督

監督委員の業務については上記以外にも広範囲に渡る論点があるのですが、私は弁護士ではなくあまり詳細にご説明することが出来ませんので、この項目はこれくらいにしておきます。

2)監督委員補助者

この監督委員に依頼され、会計や税務面についてその業務を補助するのが補助者です。この補助者には公認会計士や税理士が就任します。監督委員を務める弁護士は会計の専門家ではないため、会計や税務の専門家としての側面から補助的に意見を述べる必要があるからです。

「補助者」という名称から見て、文字通り補助的な業務だけを行う役割かと思うと、実は正しくありません。再生計画の大半を会計、税務に関する論点が占めますので、これらについて詳細な意見が求められますし、その意見は通常監督委員の意見書において引用され、意見形成にも大きな影響を与えます。

監督委員補助者の業務において、特に難しいのが、財産評定の検討と、再生計画の履行可能性に関する意見です。

財産評定における評価結果は、開始決定時の清算配当率計算を通じて再生計画が予定する弁済率の妥当性につながりますので、特に重要です。補助者の検討結果によって再生債務者が弁済率を上げざるを得ない場合もあります。

また、再生計画履行可能性に関する意見も重要です。再生債務者は将来の企業努力や需要増大なども見越して再生計画を策定しますが、このような将来の事象を前提とした項目の検討は、本来占い師でも無い限りは言えるわけがありません。そういった意味で極めて困難な業務であると言えます。実際には、過去や直近の実績、現在の営業状況、市況の調査など広範囲な情報を総合的に判断して、「再生計画案の履行が明らかに不可能ではない」点が存在するかどうかについて意見を述べることが多くなります。

経験上から私見を述べますが、私は監督委員補助者としての独立性は十分に保ちながらも、再生に向かって努力する会社(再生債務者)の経営者や従業員たちの強い気持ちを出来るだけ汲み取るように意識しています。もし再生がうまく行けば、再生債務者だけではなく、債権者や従業員、取引先、地域など多くの利害関係者に良い影響がもたらされるからです。

反面、民事再生を不正に利用しようとするケースも少なからずありますので、後述する不正への対応については十分に注意しています。

3)監督委員意見書の効果

さて監督委員やその補助者の意見書がどのように記載されたとしても、最終的にその再生計画案の適否について結論を出すのは再生債権者です。このためもあってか、今まで「監督委員や補助者の意見書が原因で否定された」案件はないとの事です。

しかしこれは、どのような再生計画案でも認める甘い判断を行うというのではありません。実際にそのような再生計画案を当初提出してきた再生債務者もありましたが、そういう場合には監督委員と共に、再生債務者やその代理人弁護士と相当厳しいやりとりを通じて、債権者のためになる計画案に修正させていくべく努力することになります。

監督委員やその補助者は、申立側とはまた違った意味で、民事再生の達成そのものに大きな役割を持つといえるかも知れません。

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次回は、税務、破産に移行する場合、不正などについてご説明します。