Archive for 3月, 2016

1.監査等委員会設置会社制度
改正会社法が平成26年に可決、成立しましたが、その中に「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれました。
この制度をざっくりと説明すると、過半数が社外(従業員等ではなかった者)である3名以上の取締役で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査することを言います。

これを受けて、ここ1年ばかり上場会社において監査役会制度から監査等委員会制度に移行する会社が相次いでいます。
これは、上場企業における社外取締役の設置が事実上義務化された(「Comply or explain」ルール)ことから、監査役制度に加えて社外取締役を置くより、社外監査役を社外取締役にスライドさせてこの要件を満たしておけば合理的である、という判断が働いているものと言われています。

では、監査等委員会設置会社制度は具体的にどんな特徴を持つでしょうか。会社法の条文から拾い上げると下記の通りとなります。

  1. 監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(327条5項)。
  2. 監査役を置いてはならない(327条4項、5項)。
  3. 監査等委員取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任する(329条2項)。
  4. 監査等委員取締役の報酬等は、他の取締役の報酬等とは区別して、定款または株主総会の決議によって定める(361条2項)。
  5. 監査等委員会は、監査等委員である取締役3名以上(過半数が社外)で組織され、監査等委員は、取締役でなければならず、かつ、その過半数は、社外取締役でなければならない(331条6項)。
  6. なお、常勤の監査等委員を置くことは義務付けられていない(監査役における390条3項に該当する記載なし)。
  7. 監査等委員取締役の任期は2年(短縮不可)であるのに対し、他の取締役の任期は1年(定款または株主総会決議により短縮可)である(332条3項、4項)。
  8. 監査等委員会は、監査等委員取締役の選任に関する議案の提出について同意権を持つ。また、監査等委員取締役は、監査等委員取締役の選任等に関して意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第1項、4項、344条の2第1項、4項)。
  9. 各監査等委員は、株主総会において、監査等委員取締役の報酬等について意見を述べることができる(361条5項)。
  10. 監査等委員会が選定する監査等委員(選定監査等委員)は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる (361条6項)。
  11. 監査等委員以外の取締役との「利益相反取引」について、監査等委員会が事前に承認した場合には、取締役の任務懈怠の推定規定を適用しない(423条4項)。
  12. 監査等委員会設置会社の業務を執行するのは、代表取締役または業務執行取締役(363条1項各号)であり、執行役は設置されない(399条の13第3項)。
  13. 業務執行の決定
    1)監査等委員会設置会社の取締役会は、362条4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
    2)1)にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。
    また 1)及び 2)にかかわらず、重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(399条の13第4項、5項、6項)。

2.具体的に変わったところ、変わっていないところ
これらの条文を読んだり、運用の現場にあてはめると、どうも次のような捉え方をしておくことが妥当なようです。
①監査役の権限、立ち位置との違い

  • 監査役の権限は原則そのまま有する
    従来の監査役の権限そのもので本質的に変更されたものはなく、監査を行う上での権限は原則としてそのままスライドしていると考えて良さそうです。但し、任期は4年から2年に短くなっています。
  • 独立性も原則そのまま維持
    選任、報酬決定、会計監査人に関する議案等がほぼ同じ
  • 但し「独任制」は否定されている
    監査役は監査役そのものが監査を担う会社の機関として定義されていました(監査役が単独で監査活動が出来た)が、監査等委員会は「監査等委員会として」監査を行うことになります。
  • 常勤の設置義務なし
    ここが非常に大きな違いです。監査役制度においては常勤監査役の設置が義務付けられていましたが、監査等委員については常勤を「置かなくても良い」ことになっています。
  • 議決権を持つ
    最大の権限強化と言えます。議決権の行使は会社のガバナンス強化に大きく影響します。

②監査業務への影響
常勤の設置義務がないことで、これまで行ってきた監査役監査からアプローチが少し変わってくると考えます。
例えば、常勤監査役が重要会議に出席するなどして収集してきた情報が、たとえば「監査等委員会室」などのサポート部門や内部監査部門の情報を利用することで集められることになります。加えて監査役監査が独任制も合わせ「直接的」に監査していた状態と少し変わり、監査等委員会による「モニタリング」に重点を置いた監査が主となると考えます。

また、取締役として議決権を持つことから、監査役が行っていた「適法性監査」に加え「妥当性監査」も監査すべき領域であるとされています。
妥当性まで監査の範囲に含まれるのであれば、監査等委員取締役は単純に「問題や間違いを是正する」というスタンスから、一種「投資家」としての視点に切り替えが必要なように思います。また、経営上のリスクマネジメントについても、十分に行われているかをチェックする必要が出てくると思います。

このような方向性は簡易版「執行と監督の分離」とも言えのですが、実際の所執行部門と監査部門の分離は設計上不十分であり、運用でカバーする必要があります。この点、今後監査等委員会設置会社制度が普及するにつれ、実務の積み重ねが重要となってきます。

3.株式会社ロックオンの例(強固なガバナンスを目指して)
私(塩尻明夫)が現在社外取締役(監査等委員)に就任している「株式会社ロックオン(東証マザーズ)も、平成27年に監査等委員会制に移行しました。ただ、当社の場合はいわゆる「監査役会スライド」で社外取締役の員数を満たすために移行したのではありません。

もともと当社は、監査役の他に上場前から社外取締役を設置しており、いわゆる「Comply or explain」ルールに悩む必要がないガバナンスを整備していました。
このような当社が監査等委員会制度に移行したのは、上記でご説明したような特徴のうち、ガバナンス強化というメリットを享受するためです。

結果として、当社は取締役7名のうち4名が社外となりました。内訳は、執行取締役が創業メンバーが3名、監査等委員以外の社外取締役が公認会計士であり上場企業取締役経験者、また監査等委員取締役が、それぞれ企業経営経験者、弁護士、公認会計士という構成となっております。
就任している企業ではありますが、当社の経営陣は現在の規模で実現し得る最も強固なガバナンスを実現していると言っても良いと思います。

なお、移行と同時に常勤監査担当取締役を設置しなくなったことによるデメリットには、モニタリングの強化、内部監査体制の再整備などで対応することとしています。

以上


はじめに
医療法人制度は、医療事業を法人組織化することにより、その運営に安定性、持続性をもたらすことを目的として作られました。昭和25年に始まった医療法人制度も、幾多の改正を経て「一人医療法人」制度の導入や「持分の定めのない医療法人」など、現在の制度に至っています。
この医療法人制度、本質である「非営利性」や、「医療法による規制」などはもちろん重視すべきなのですが、広い意味での経営安定につながる「税制上のメリット」や「医業継続上の有利性」など、小規模な診療所でも活用すべき論点がたくさんあります。
この記事は、特に「一人医師医療法人」に焦点を当て、メリットやデメリット、そして少々難しい注意点について簡単に説明します。
分量が多くなりますので簡単な説明に留めますが、ご興味がおありの方は是非事務所までお問い合わせ下さい。

1.一人医療法人のメリット
①個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
②法人税の実効税率が低いため、所得税よりも通常課税が小さくなります。また理事長先生の給与には「給与所得控除」が適用され、必ず節税になります。
③理事長家族への所得分散が容易になり、個々人の所得税・住民税の税率が下がることで節税ができます。
④理事長先生に支払う退職金を、法人の損金として計上することができます(個人は不可)。また退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
⑤個人はわずかな控除しかできない生命保険料などを、損金に計上できます。
⑥交際費や車両関係費に対する扱いが緩和されます。例えば、個人時代に使用する車両関係費はその10%~50%について家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければなりませんが、法人名義の車両は原則として全額経費になります。
⑦欠損金の繰越が9年間認められます(個人だと青色申告で3年間、平成29年4月1日以降はさらに10年と伸びます)。
⑧持分がないため、相続対策がやりやすくなります。
⑨法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなり、資金繰りが楽になります。
⑩将来に後継者がいなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済みます。
⑪別の医師に医療法人を低い税負担で譲渡することができます。

2.医療法人のデメリット
①交際費の一部が損金不算入となります。但し法人税法の改正により、事実上問題とはならなくなりました。
②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加します。
③設立に関しては、かなり複雑な手続(届出や登記)が必要となりますので、院長先生ご本人や事務長さんが行うことはほぼ不可能です。
④医業専門でない税理士先生が担当している場合、同様に手続が難しく、失敗してしまう場合があります。特に、登記申請や保健所、施設認定などの届出タイミングを誤ると、一時的に社会保険診療が出来ない(請求できない)といった、冗談では済まないトラブルも発生する場合があります。

3.法人成りによる一人医療法人の設立認可申請に係る必要書類(一般的なもの)
・医療法人設立認可申請書
・定款
・設立時の財産目録、各内訳明細書
・負債の残高証明及び債務引継承認書(負債を引き継ぐ場合)
・設立決議録
・診療施設の概要
・不動産賃貸契約書
・役員就任承諾書及び履歴書
・印鑑登録証明書
・管理者就任承諾書
・医師・歯科医師免許証のコピー
・社員及び役員の名簿
・基金の募集に関する書類
・登記事項証明書
・賃貸契約の引継承認書、賃貸契約書(不動産、リース等)
・原本証明

4.注意点
①医師国保、歯科医師国保
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)
医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、「個人時代に医師国保に加入している場合」は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ますが、医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。

②法人のお金は、院長の自由にはならない
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
また、全く同じ効果を持つ費用でも、理論的・実務的に法人と個人で経費になるかどうかが異なる場合があります。この点についても、常に相談できる専門家を持つことが必要です。

③届出・登記などの手続きが発生する
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生します。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となります。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。

④配当禁止のため持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
平成19年3月以前に設立された医療法人は出資持分があり相続税が課税されますので、この対策(増加を押さえたり、持分のない医療法人に移行するなど)は必須です。

⑤解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

⑥各都道府県ごとに、実施すべき手続や提出書類、スケジュールがかなり異なっています

⑦個人時代の借入金は全て引き継げません。法律上は「設備に関する借入金に限る」とされているのですが、実際の運用は都道府県によって異なります。

⑧その他
これら以外にもたくさんあるのですが、分量が多くなりますのでリストしておくに留めます。検討される際は、専門的に知識や経験のあるコンサルタントへ必ずご相談ください。

・役所窓口とのコミュニケーションは綿密にとっておく
・移行資産負債の検討は厳密に
・銀行等への確認書は、出来るだけ早めに出しておく
・理事捺印なども早い目に対応しておく
・登記完了報告書や、銀行の手続、資金繰りその他 設立認可、登記後も気を抜けない

以上