Archive for 4月, 2016

いわゆる「相続税対策」や「事業承継対策」の仕事をしていますと、資産家や経営者の方々から「出来るだけ子供たちには公平に資産を分けたい」というご意向を伺う時が良くあります。

この「親が子を思う気持ち」、大変良くわかるのですが、悲しいことに相続において「絶対的公平」は不可能だと思って頂いた方が良いのです。

この記事に置いては、何故それが不可能かについて説明し、どのようにすれば「公平」が実現できるかについて述べてみたいと思います。

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1.財産分けの難しさ

相続において重要な「財産分け」。

この財産分けに置いては、よく「争族」と呼ばれるように揉めることが少なくありません。

なぜ単に「分ける」ことがそれほど難しいのでしょうか?

それは、相続をとりまくさまざまな法律や実務が極めて大きく影響しています。

 

今、100万円の預金があるとします。これをあなたとご友人の2人で「公平に」半分ずつ分けて下さい、と私が依頼した場合、あなたならどのように分けるでしょうか?

この場合は、当然ながら「50万円ずつ」が正解ですね。

しかし、同じ100万円であっても、一株の時価が現在100万円の株式ならどうでしょうか?

真っ二つに切り裂くわけにもいかないし、さりとて一人が一株を手に入れてしまえば、もう一人が受け取る分は無くなります。

このような場合、少し考えれば「株式を売却して現金化し、50万円ずつ分ける」ならば公平を保ったまま分けることが出来ると気づくかもしれません。

ではさらに、「その株式を現金化してはならない 」という条件が与えられた場合にはどうでしょうか。

幸運なことに、世の中にはこの問題に対する答えがきちんと用意されています。

株式をもらった側は、自らの手持資金から50万円を支出し、株式をもらっていない側に渡せばいいのです。

この場合、手持資金がなければ50万円を借りて支払ってもかまいません。なぜなら、手元には100万円相当の株式があり、50万円の借金が出来たとしても差引50万円の財産増加には変わりないからです。

ここでは、あなたが株式を受け取り、すぐに現金が必要であった友人はあなたから50万円の現金を受け取ったと仮定しましょう。

 

これで公平に分割が出来た、と思っていたあなたと友人は、後にそれが誤っていたことに気づきます。

というのも、この株式会社がその後すばらしい新技術を開発し、その技術を利用した製品の市場があまりに大きいため株価が一度に100倍になってしまったのです。

つまり、あなたの友人は50万円の現金しか手に出来なかったのに、あなたは一躍1億円(彼に先に50万円を支払っているから、正確には9,950万円)の価値ある資産を手に出来たことになります。

そうなれば、「損をした」友人はおそらく黙っていないでしょう。あなたの幸運をうらやみ、何がしかの補償を要求するかもしれません。分割時点では公平でも、結果として「公平」とはとてもいえない結果となったのですから当然とも言えます。

それに応じるかどうかはあなた次第ですが、いずれにせよあなたと友人の仲が悪化しないことを祈るばかりです。

さて一体、「公平な分割」とは何だったのでしょうか?

 

2.相続における財産分け(遺産分割)

このような問題は、当然ながら相続の現場において頻発します。

分割が「著しく不合理」であった場合には分割をやりなおすことも認められていますが、単に不動産の収益性の見込み誤り等による不合理については、そのような分割のやり直しを認められていません。

このような問題が起こる理由は、それほど複雑ではありません。

単に民法(相続法)、税法(相続税法)、経済実態(見込も含む)によって、全く「公平」の概念が異なるからなのです。

 

民法上の公平は、「相続が発生した時点の時価」によって評価した財産を公平に分割することにより実現できます。この民法の考え方が最も私たちの常識に近く、一般的であると言えます。

しかし経済実態上の公平は、その時点での時価評価だけを考えていては実現できません。

将来についても予測可能な範囲で考慮することが必要となります。
先の例で言えば、分割する時点で件の新技術の開発が実現していたならば、その果実を見込んで発生した株価上昇による利益の一部はあなたの友人にも当然与えられるべきであるとも言えます。

 

税法に基づいて公平を考えた場合には、民法の考え方とほとんどの場合同じ考え方となります。

なぜなら、相続税が課税される財産を計算する際は、原則として民法と同様に時価を採用するからです。

しかし、税法には他と大きな違いがあります。それは税法上の優遇措置などの政策的項目です。

一般的なものは下記の通りです。

 

・  小規模宅地等の評価減…居住用、事業用の宅地については大幅な減額が認められる

・  基礎控除、生命保険料控除…相続人数に応じて、非課税となる金額が増加

・  配偶者の税額控除…配偶者の相続分は、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方まで非課税

・  株式の評価手法…同族株主グループかどうかによって大きく時価が異なる

 

これらは、当然ながら時価で計算した結果との乖離を生み、当然ながら相続税額の計算にも影響を与えます。たとえば、配偶者の税額軽減など相続財産の配分方法によって税額そのものが変わってくるような制度の場合であると、民法上の公平を実現しても、税法上はもっとも税額を圧縮したとはいえなくなる場合が出てきます。

 

3.財産分け時の配慮

同じ「財産を分割する」ということであっても、法律等の考え方の違いで大きな差が発生することが分かって頂けたでしょうか。

当然ながら、民法、税法、経済実態のうちひとつの考え方だけを採用して分割を決定した場合、税金面で割高となったり、損をした(と感じる)他の相続人等から異論が出て来る可能性は高くなります。

財産分けを行う場合にはこれらのうちどの考え方を採用するかについて常に注意を払い、各相続人等に納得してもらう必要があります。

この納得してもらう方法にはいろいろありますが、やはり一番は被相続人となる予定の方(親など)が相続人となる予定の方(推定相続人)対してきちんと説明しておくことが大事です。またこれらを遺言によって説明しておくことも大変効果的です。

(参考:事務所ブログ 「遺言を書こう」

もちろん相続税を計算するわれわれとしても、分割の決定まではこれらを出来るだけ詳しく、わかりやすく説明することが不可欠であると考えています。

以上


日本は技術大国でもありますから、特許などの知的財産を保護、活用することは大変重要です。

自分の発明を特許にしたものや他から買った特許をライバルの侵害から守る、ということも重要な知財財産の保護なのですが、最近は新たな権利保護の論点が重視されています。

そのうちの一つが「職務発明」と呼ばれる分野です。職務発明とは、会社等に努める従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成した発明のことを言います。

この職務発明について、昨年特許法が改正されて、この4月1日から施行されることとなりました。 今回はこの特許法改正について説明します。

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1.特許法

特許が「発明で大儲け」の為にあると思われることが多いのですが、本質的な目的は違います。 特許法が冒頭の第1条で、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」としている通り、特許はまず産業の発達を目的としているのです。 このため、特許の権利者はもちろん一定期間保護されるのですが、その代わりに特許の基本となった技術を世界中に公開しなければなりません。公開と保護を組み合わせることで、産業の発達を促進するのです。

 

2.職務発明

さて、現代の製造業はどこも大規模化していますから、発明と言ってもほとんどが会社等の組織で行われたものとなっています。この場合、ほとんどの発明は、会社等の従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成することになります。 今回説明する職務発明とは、まさにこのことを言います。

ノーベル賞受賞で有名となった「青色発光ダイオード」に関する発明も、発明者と会社等との間で「職務発明かどうか」が争われ、大きな金額について争う訴訟(中村訴訟)となりました。

 

3.従来の取り扱い

では、なぜ「職務発明かどうか」が争いとなったのでしょうか。

従来、特許法は職務発明は「発明した従業員に帰属する」と定め、会社等はこの特許について「通常実施権を有する」とだけされていました。

通常実施権とは、その特許を使っても良い、という権利で、「専用実施権」とは違って排他性がありません。 しかも、会社等がその権利を発明した従業員から譲り受けようとすると「相当の対価」を支払う必要があります。

中村訴訟の場合は、「職務発明かどうか」「職務発明の場合に会社が譲受けていたかどうか」「相当の対価はいくらか、受け取っていたか」が論点になっていました。また相当の対価の計算についても、計算方法によって大きなばらつきがみられました。 このように、従来は会社等が権利関係を明確にして保護しようにも従業員から譲受ける必要がありましたし、相当の対価についても不安定であるということから、知財経営の側面から見て不確定要素が多く問題とされていました。

 

4.改正特許法の取り扱い

そこで、権利帰属や支払対価の不安定性を解消するため、改正特許法において以下の点が改正されます。

  1. 契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ会社等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から会社等に帰属するものとする。
  2. 従業員は、特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとする。
  3. 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとする。

上記の「相当の金銭その他の経済上の利益」については、例えば法人負担による留学の機会付与や、ストックオプション、昇進昇格による給与増加、特別休暇の付与などが含まれます。

なお、会社等が従業員に対してあらかじめ①の定めをしていなければ、従来通り特許は従業員に帰属することとされました。

 

5.今後の論点

特許法改正で権利帰属の問題についてはある程度整理されたと思いますが、他方「対価」や「利益」については引き続き問題が残ります。

この対価、すなわち「いくらになるか」の計算は、実は非常に難しい実務です。 特許をはじめとする知的財産は、物理的な財産と違って100%人間が作り出したものですから、物理的な財産のように度量衡で量ることが出来ないのです。

また、含まれている技術も百者百様ですから、標準的な計算方法が明確に定められている訳ではありません。 今回の特許法改正で、従来にも増してこの「いくらになるか」の計算が重要になってくるものと考えています。