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はじめに
医療法人制度は、医療事業を法人組織化することにより、その運営に安定性、持続性をもたらすことを目的として作られました。昭和25年に始まった医療法人制度も、幾多の改正を経て「一人医療法人」制度の導入や「持分の定めのない医療法人」など、現在の制度に至っています。
この医療法人制度、本質である「非営利性」や、「医療法による規制」などはもちろん重視すべきなのですが、広い意味での経営安定につながる「税制上のメリット」や「医業継続上の有利性」など、小規模な診療所でも活用すべき論点がたくさんあります。
この記事は、特に「一人医師医療法人」に焦点を当て、メリットやデメリット、そして少々難しい注意点について簡単に説明します。
分量が多くなりますので簡単な説明に留めますが、ご興味がおありの方は是非事務所までお問い合わせ下さい。

1.一人医療法人のメリット
①個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
②法人税の実効税率が低いため、所得税よりも通常課税が小さくなります。また理事長先生の給与には「給与所得控除」が適用され、必ず節税になります。
③理事長家族への所得分散が容易になり、個々人の所得税・住民税の税率が下がることで節税ができます。
④理事長先生に支払う退職金を、法人の損金として計上することができます(個人は不可)。また退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
⑤個人はわずかな控除しかできない生命保険料などを、損金に計上できます。
⑥交際費や車両関係費に対する扱いが緩和されます。例えば、個人時代に使用する車両関係費はその10%~50%について家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければなりませんが、法人名義の車両は原則として全額経費になります。
⑦欠損金の繰越が9年間認められます(個人だと青色申告で3年間、平成29年4月1日以降はさらに10年と伸びます)。
⑧持分がないため、相続対策がやりやすくなります。
⑨法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなり、資金繰りが楽になります。
⑩将来に後継者がいなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済みます。
⑪別の医師に医療法人を低い税負担で譲渡することができます。

2.医療法人のデメリット
①交際費の一部が損金不算入となります。但し法人税法の改正により、事実上問題とはならなくなりました。
②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加します。
③設立に関しては、かなり複雑な手続(届出や登記)が必要となりますので、院長先生ご本人や事務長さんが行うことはほぼ不可能です。
④医業専門でない税理士先生が担当している場合、同様に手続が難しく、失敗してしまう場合があります。特に、登記申請や保健所、施設認定などの届出タイミングを誤ると、一時的に社会保険診療が出来ない(請求できない)といった、冗談では済まないトラブルも発生する場合があります。

3.法人成りによる一人医療法人の設立認可申請に係る必要書類(一般的なもの)
・医療法人設立認可申請書
・定款
・設立時の財産目録、各内訳明細書
・負債の残高証明及び債務引継承認書(負債を引き継ぐ場合)
・設立決議録
・診療施設の概要
・不動産賃貸契約書
・役員就任承諾書及び履歴書
・印鑑登録証明書
・管理者就任承諾書
・医師・歯科医師免許証のコピー
・社員及び役員の名簿
・基金の募集に関する書類
・登記事項証明書
・賃貸契約の引継承認書、賃貸契約書(不動産、リース等)
・原本証明

4.注意点
①医師国保、歯科医師国保
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)
医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、「個人時代に医師国保に加入している場合」は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ますが、医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。

②法人のお金は、院長の自由にはならない
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
また、全く同じ効果を持つ費用でも、理論的・実務的に法人と個人で経費になるかどうかが異なる場合があります。この点についても、常に相談できる専門家を持つことが必要です。

③届出・登記などの手続きが発生する
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生します。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となります。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。

④配当禁止のため持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
平成19年3月以前に設立された医療法人は出資持分があり相続税が課税されますので、この対策(増加を押さえたり、持分のない医療法人に移行するなど)は必須です。

⑤解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

⑥各都道府県ごとに、実施すべき手続や提出書類、スケジュールがかなり異なっています

⑦個人時代の借入金は全て引き継げません。法律上は「設備に関する借入金に限る」とされているのですが、実際の運用は都道府県によって異なります。

⑧その他
これら以外にもたくさんあるのですが、分量が多くなりますのでリストしておくに留めます。検討される際は、専門的に知識や経験のあるコンサルタントへ必ずご相談ください。

・役所窓口とのコミュニケーションは綿密にとっておく
・移行資産負債の検討は厳密に
・銀行等への確認書は、出来るだけ早めに出しておく
・理事捺印なども早い目に対応しておく
・登記完了報告書や、銀行の手続、資金繰りその他 設立認可、登記後も気を抜けない

以上


1.病院の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。
(1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
(2)不正を行うことができる「機会」
(3)不正を行うことが本人にとって「正当化」
これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。

4.病院における不正の例

①横領

  • 窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ
  • 自動販売機等売上金の横領
  • 医薬品の横流し

②キックバック

  • 医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける

③不正経理

  • 横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する
  • 架空人件費

5.防止対策

  • 不正のトライアングルの把握
    職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。
  • 病院向け内部統制の整備
    病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。
  • 内偵調査、尋問
    残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。
  • 税務調査の利用
    税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら

6.お問い合わせ、ご相談、料金
個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

私どもは、企業の公認会計士監査や内部統制構築、不正防止・調査の実績、また認定登録医業経営コンサルタントの実務経験を生かし、これらの不正リスクを低減する体制構築のお手伝い、また不正調査を行うことが可能です。
病院における不正防止にご興味のある方、また、残念ながら不正が疑われる事実や情報が現時点で顕在化している医療機関におかれましては、是非お気軽にご相談下さい(ご相談は無料)。

以上


医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団(医療法の定義)」を言います。
医療自体は医師等の専門家が行うべきものですが、病院のように大規模な組織や施設をもつ場合には、個としての活動には限界があり、組織経営が必要となってきたことから定められた制度です。

この「医療法人」制度は、昭和25年に始まり、その後昭和39年の「特定医療法人」制度や、昭和60年の「一人医師医療法人」制度など、変遷を経て現在に至っています。

さて、現在存在する医療法人の多くは、平成19年4月1日より前に設立された「出資持分(株式のようなもの)あり」法人となっています。
現在この「出資持分のある医療法人」の新規設立は認められておらず、「経過措置(型)医療法人」と呼ばれています。

これらの法人の出資持分には財産価値があります。このため、出資持分には以下のような問題が発生します。

  • 出資割合に応じて純資産の払戻しを請求できる
    →医療法人の資金が激減し、資金繰りを圧迫する可能性がある
  • 出資者が死亡した場合、相続財産となる(時価評価は株式等に準じて行われます)
    →換金できない資産(持分)に高額な相続税が課税される
    相続税の概算についてはこちら(相続税の概算)をご覧ください
  • ある出資者が持分を放棄した際、他の出資者持分の価値がその分上がったものとして、他の出資者に「贈与税」が課税される

このような問題を回避する手段として「出資持分なし医療法人」への移行という手続が準備されています。
この手続は、出資者が自分の出資持分を放棄することで、上記のような問題を解決することを目的としています。
(※もちろん、こういう問題に心配が要らない場合、持分ありのままでも問題ありません)

この「出資持分なし医療法人」への移行を促進するため、厚生労働省は 「認定制度」を作りました。
認定制度の流れは、以下の通りです(厚生労働省資料より )。

この制度の特徴は、以下の通りです。

  • 認定を受けると、上記の問題点で説明した「贈与税」「相続税」の納税が猶予されます
  • 認定の日から3年以内に出資持分が放棄され、持分のない医療法人になると、猶予された税額が免除されます

なお、出資持分の免除により、免除した者の相続税や贈与税が不当に減少すると認められる場合(相続税法66条④)の「法人に対する贈与税課税」は、依然としてのこっています。この課税がなされないためには、運営組織の適性性や法人の社会的存在としての認識など、いくつかの要件を満たす必要があります。

出資持分は財産であるとともにオーナーシップの源泉であり、これを簡単に放棄することは医療法人の経営に悪影響を与えるかもしれないという懸念をお持ちの方も多いと思います。
この考え方は間違っている訳ではありませんが、他方多くの医療法人が抱える純資産は、前述のような金銭的問題を必ず生みます。
財産的オーナーシップの消失は、人的なオーナーシップ(ガバナンス)などでカバーすることも可能ですので、経営体制の強化とともに、ぜひこの認定制度を活用し、持続的な病院・診療所経営が可能となる体制を整えて頂きたいと考えております。


はじめに

平成26年4月1日から、消費税の税率が8%となった。この税率アップは、前回平成9年に税率が5%とされてから実に17年ぶりの税率改定となる。このことにより、元々消費税に関連して存在していた問題のいくつかが改めてクローズアップされることとなった。

我が国の消費税には、いわゆる「益税」の問題、すなわち最終消費者から預かった税金が全て納付されない場合がある、という問題が議論されている。しかし、医療機関に限れば、逆に「損税」と言われる論点が存在することも忘れてはならない。これは、社会保険診療報酬が消費税法上非課税扱いとなることに伴う、医療機関の消費税負担問題である。

以下、消費税の歴史や税体系、課税構造を説明しつつ、この損税問題がなぜ発生するか、また国民皆保険制度の元このような問題を解決するためには、どのような政策を採るべきかについて考察する。

 

1.我が国の消費税の歴史と現状について

1)物品税

平成元年に消費税が導入されるまでの間、我が国においては間接税の一種である「物品税」が長い間採用されてきた。この物品税は、間接税についての伝統的な考え方の一つである、「生活必需品に対しては課税を控え、贅沢品はそれを購入する者に担税力が認められるから重く課税する」という考え方に基づく課税体系を基本としていた。

上記のような考え方に基づく物品税は、どの品目を課税対象とするかについてあらかじめリストアップしておく必要がある。しかし、需要者側のニーズが多様化することにより、同じ物品でも生活必需品か贅沢品であるかといった判定があいまいで課税に困難が生じたり、本来奢侈度の多寡で税率を変えていたものが不公平感のある課税体系となったりといった問題が発生していた。また、様々に進化するサービス業には原則課税されないなど、課税ベースの狭さも課題であった。

2)消費税成立までの流れ

このような問題を抱えた物品税に変わり、一般的な付加価値税の体系を持つ消費税については長い間議論や政治的検討がなされてきたが、下記の通り平成元年にようやく現在の消費税が導入された。

消費税導入から現在に至る流れについて、下記(表1 消費税の歴史)にあらましを示す。

表1 消費税の歴史

昭和53年 第1次大平内閣時に、一般消費税導入案が浮上。総選挙の結果を受け撤回。
昭和61年 第3次中曽根内閣時に、売上税法構想。
昭和63年 竹下内閣時に、消費税法が成立、12月30日公布
平成 元年 4月1日 消費税法施行 税率3%
平成 9年 4月1日、村山内閣で内定していた地方消費税の導入と消費税等の税率引き上げ(5%)を橋本内閣が実施。
平成24年 野田内閣が消費税率引き上げ法案を提出。8月10日、参院本会議で可決成立。
平成25年 安倍内閣が消費税率の8%への引き上げを決定。
平成26年 消費税率の引き上げ(8%)が実施される。

 

2.消費税の課税構造

1)概要

消費税の課税構造は一般的に、事業者が「売上等で顧客から預かった消費税」から、「仕入や経費等で支払った消費税」を差し引いた額を納税するという課税構造であると説明されることが多い。しかし、消費税の課税は実際にはもう少し異なる形で計算されている。

消費税の「課税標準(税金をかける元となる金額)」はあくまで売上等の「収入」であり、法律の建前としてはこれをまず納付するという形になっている。具体的には、課税標準に6.3%の消費税率(国税分。残り1.7% は「地方消費税」)を乗じたものが法律上「消費税額」と呼ばれているのである。

そして、これに対応する「仕入税額(支払った消費税額)」で一定の要件を満たす金額を控除したものが「納付税額」と呼ばれ、納付する国税額となる(その後地方消費税額が計算される)。

一般的に、消費税をはじめとする付加価値税の課税やその計算、管理には本来「インボイス方式(税務署等が発行する所定の伝票を消費税の支払・受取時に使い、納税額を当該伝票で確定する方式)」が適しているが、消費税の導入当初、中小企業の事務負担軽減のため見送られた経緯がある。

上記の通り、消費税は「預り金」ではなく、あくまで「事業者が受け取った金額に対する消費税」が主であり、支払った消費税は「控除できる」部分に過ぎないのである。このことは消費税導入当初から研究者や実務家によって指摘されており、現在は国税庁も「預り金的性格」であると表現することが多い。

 

2)消費税法の体系

消費税法は、以下の通りの税法体系となっている。

第一章 総則(第一条―第二十七条)

第二章 課税標準及び税率(第二十八条・第二十九条)

第三章 税額控除等(第三十条―第四十一条)

第四章 申告、納付、還付等(第四十二条―第五十六条)

1)で説明した通り、第二章で「課税標準」や「税率」について規定し、第三章で「税額控除」について規定するという体系となっている。

 

3)計算方法

消費税の計算方法は、おおよそ以下の通りである。

  • 「課税標準」と「税額控除」
①課税売上高(課税雑収入を含む)×6.3%を「課税標準」とする
②課税仕入、課税経費から「税額控除額(6.3%)」を計算
③ ①-②=「消費税額(国税)」
④ ③×17÷63=「地方消費税額」
⑤ ③+④=「納付税額」

 

  • 課税売上高が5億円以下、かつ課税売上高割合(売上や雑収入、固定資産の売却など全ての収入取引に占める課税売上高の割合)が95%以上でなければ②の全額を控除することができない。
  • 上記を除く場合は、②のうち「課税売上に対応する課税仕入」に限り①から控除できる。
  • 控除可能な仕入消費税額が課税売上に対する消費税額を上回った場合、当該上回った部分は還付される。
  • 2事業年度前の課税売上高が5000万円以下の事業者は、選択により「簡易課税」制度が選択できる。これは、上記の「消費税額」から、事業ごとに認められた「みなし仕入率」により計算された仕入税額を控除することで納付税額が計算できる簡易な方法である。

 

4)課税・非課税・不課税

消費税法上、事業者が行う取引は、以下の3つに分類して課税関係が決められている。

  • 課税…「対価性」のある国内取引(非課税取引を除く)
  • 非課税…「対価性」はあるが、消費されないもの(土地など)や政策上消費税を課さないもの(住宅貸付、医療など)
  • 不課税(免税)…「対価性」のないもの(贈与など)、国内取引でないもの(輸出)

 

5)基準期間

我が国の消費税は、課税売上高を基準として、主に小規模事業者に対する負担軽減(免税)や手続の簡易化(簡易課税の適用)などを認めているが、この判定に使用する課税売上高は、事務手続を考慮して原則として2事業年度前のものとなっている。

 

3.医療と消費税の関係

1)消費税導入時における医療の扱い[参考1]

理論的には医療も「サービス業」であり「役務提供」の一種であるから、消費税が課税の対象とする「対価性ある役務提供」であると言える。しかしながら、医療は所得の大小に関わらず、全ての人の生命を守るために必要なものであり、需要側(患者)、供給側(医療)ともに採算を考えずに支出、供給せざるを得ないものである。

このように、医療は低所得者であっても生きていくために選択の余地なく必要となる支出であり、そもそも逆進的な要素を持っている。この上、さらに逆進性を持つと言われる消費税を課税すると、低所得者に対する負担をより増大することになり、公的医療保険の趣旨にもそぐわない。

このため、消費税法は6条(非課税)及び別表第1において医療(公的医療保険の対象となるものに限る)を非課税としているのである。

2)現在の消費税における医療、介護の取扱

それでは、現在の消費税法における医療、介護の取扱について、先に述べた「別表第1」の記載から抜粋して説明する。

 

①社会保険医療の給付等

健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などは非課税。但し、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は課税取引となる。

 

②介護保険サービスの提供

介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなどは非課税。但し、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は課税取引となる。

 

③社会福祉事業等によるサービスの提供

社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供は非課税。

 

3)社会保障・税一体改革と税率引き上げ

平成24年6月21日、当時政権党(野田内閣)であった民主党と、野党第一党であった自民党、公明党の三党間において、「社会保障・税の一体改革」について合意が成立した。この合意に基づき、平成24年6月26日、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案が衆議院本会議で採決され、民主党・国民新党・自民党・公明党の賛成多数で可決、平成24年8月22日に公布された(平成24年法律第68号)。

この後自民党への政権交代がなされた後も経済動向を注視しながら消費税率引き上げの可否を検討した結果、平成25年10月1日、安倍首相は、官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、平成26年4月に消費税率を8%に引き上げると表明した。

 

4.益税、損税のメカニズム

1)益税問題

我が国の消費税には導入当初から「益税」と呼ばれる問題が指摘されている。この益税は、簡単に言えば「顧客から預かったとされる消費税が全て納税されない」という問題である。

以下この「益税」問題に関して説明するが、消費税制度は平成元年の導入当初から現在に至るまでかなり変遷しているため、下記の説明は現在の制度を対象としている。

 

①免税事業者

基準期間(2事業年度前)の課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される。これは、小規模事業者の事務負担を軽減するための制度と言われている。

このような事業者でも、消費者は消費税を含んだ支払をする必要がある(外見的に課税事業者か免税事業者か判別できるか否かに関わらず、顧客は消費税分を含めて支払う必要がある)ため、免税事業者に支払われた消費税については全額納税がなされないこととなる。その納税がなされない部分は事業者の利益になるが、この部分がいわゆる「益税」と呼ばれる。

 

②簡易課税事業者

前述の通り、消費税は原則「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入に係る消費税額」を控除することで計算される。

しかし、基準期間における課税売上高が5000万円以下である事業者は、「みなし仕入率」を用いて仕入税額を計算することができるとされている。これを「簡易課税制度」と言う。

この「みなし仕入率」は、事業の種類(卸売、小売、製造、各種サービス業等)に応じて90%から40%まで段階的に設定されているが、これらはそれぞれの業種ごとの平均的な課税仕入率(課税仕入が課税売上の何%となるか)よりも納税者に若干有利、すなわち大きくなるように設定されていると言われている。

このため、実際の仕入税額よりみなし仕入税額の方が大きくなり、その差額部分がいわゆる「益税」となる。この制度も小規模事業者の事務負担軽減のために設けられた制度である。

 

2)損税問題

2.消費税の課税構造 3)計算方法 で説明した通り、消費税法上、事業者が課税仕入となる仕入や経費への支払を行ったとしても、その課税仕入が課税売上に対応するものでなければ当該課税仕入を課税売上から控除することは出来ない。

医療機関の収入が全て社会保険診療報酬だけであったとすると、3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、この収入は消費税法上非課税と規定されているから、当該医療機関には納税すべき消費税が発生しないこととなる。

他方、医療機関が支払う医薬品仕入、家賃、検査機器やその他経費については消費税が課税されている。となると、課税売上がない事業者に発生した仕入消費税額は一切控除できない。そうであれば当然、課税売上のある事業者には認められている「仕入税額の還付」(2.消費税の課税構造 3)計算方法 を参照)も受けられないこととなる。

医療機関も理論的にはサービス業であるから、本来消費税を負担すべきなのはサービスを受ける患者である。しかしながら、上記のようなメカニズムにより、結果としてあたかも医療機関が消費税の最終負担者のような形になっているのである。これがいわゆる「損税」問題である。

この「損税」問題について、厚生労働省は「診療報酬改定の際、影響額を織り込んでいる」と主張している。具体的には、平成元年(消費税導入、税率3%)時点で0.76パ-セント、平成9年(消費税率を5%に引き上げ)の際に0.77パ-セント、都合1.53パ-セントを行政措置として社会保険診療報酬に上乗せして控除対象外消費税の手当をしてきたというものである。そしてこの引き上げは、消費税や税率引き上げで増加する医療機関の平均的な「損税」部分に見合ったものであるとされている。

しかし、日本医師会は、調査の結果、医療機関の規模に関わらず現時点においても社会保険診療等収益の2.2%に相当する消費税の負担増が発生しており、2.22%―1.53%=0.69%分の損害が放置されていると主張している[参考2]。

このような主張に基づくと、予定されている税率の引き上げはいわゆる「損税」問題を拡大し、医療機関の経営を圧迫する恐れがある。

 

5.採るべき政策についての考察

1)問題点の整理

社会保障と税の一体改革は、社会保障の安定財源確保と財政健全化を同時に達成することを目指す観点から行われるものであり、消費税の税率引き上げもこの改革を目的として行われることは既に述べた。しかし、社会保障の持続可能性を目的としたこの税率引き上げは、消費税の負担割合増加を通じて「損税」問題を拡大し、結果として社会保障の重要な領域である医療の消費税負担問題を拡大するというジレンマを包含した政策であるとも言える。

この問題については、厚生労働省は前述の通り、消費税導入時と税率引上げ時に、診療報酬の上乗せにより解決済みであるとしてきた。しかしながら、医師会や医療機関からは、増加する負担に対して不十分であること、改定項目が限られていて公平に配賦しているとはいい難いこと、またその後のマイナス改定等により現在の補填状況が検証不能であること、等が問題として指摘されている[参考2]。

 

2)採るべき政策とは

このような問題に対しては、どのような政策を採るべきだろうか。

3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、医療(特に社会保険診療報酬の対象となる一般的な医療)については公共性が極めて強く、また一体改革の目的である社会保障の対象そのものであることから、消費税の軽減税率(食糧や衣料など基本的な生活必需品に一般の税率より低い税率を適用する方式)やゼロ税率(課税だが税率をゼロとする方式)は、そもそも「課税」という概念から見てそぐわないと考える。

他方、厚生労働省等が主張するように、医療が非課税となっていることで増える医療機関の負担(仕入税額に関するもの)を診療報酬の改定で対応する方式についても、改定の客観的な合理性・公平性を欠き曖昧で不十分である。

私は、上記の問題点を考慮した上で、下記の政策を採るべきであると提唱する。

  • 社会保険診療報酬は、消費税の非課税売上とするが、課税売上割合の計算上、課税売上として取り扱う。また社会保険診療報酬に対応する課税仕入は、税額控除(還付)対象とする
  • 社会保険診療報酬は、消費税の負担を考慮外として計算する

以下、上記について個別に説明する。

 

3)消費税上、社会保険診療報酬のあるべき取扱い[参考3]

消費税法上、輸出に関しては免税扱いとなっている。このため、例えば輸出が100%の事業者であれば、国内で商品を仕入れた際や経費を支払った際同時に支払った消費税についても、理論的には課税売上高がないため控除できないこととなる。

しかし消費税法は、あくまで輸出自体は免税としながらも、その他の場合、すなわち課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては、輸出を課税取引とみなす規定を置いている(消費税法31条)。

この結果、前述の100%輸入となっている事業者であっても、国内で支払った消費税額は全額税額控除の対象となり、輸出免税により消費税が発生していないことから税額控除対象の消費税が全額還付されるのである。

上記の考え方は、社会保険診療報酬にも適用が可能であるものと考える。すなわち、政策目的から必要となる社会保険診療報酬の非課税性は保持しつつ、輸出と同様に、課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては社会保険診療報酬を課税取引とみなす方式である。このような方式を採用することで、例えば収入の100%が社会保険診療報酬である医療機関においては、支払った仕入税額が全て控除対象となり、還付されることとなるのである。

なお、仮に上記のような方式を現行の消費税法に適用する場合、仕入税額控除の「帳簿記載要件(消費税法30条7~10項)」には注意が必要である。この要件は不正な税額控除を防ぐため、一定の要件を満たした仕入税額のみを控除させるために定められている。具体的には請求書と、以下の通りの情報を記載した帳簿を保存することとされている。

  • 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  • 課税仕入れを行った仕入年月日
  • 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
  • 課税仕入れに係る対価の額

なおこの要件には原則として宥恕規定はなく、災害などの場合を除き要件を満たさなければ税額控除が認められないこととなる。ほとんどの医療機関は現在課税事業者となっておらず、上記の要件を満たす帳簿記載や証憑保存がなされていない可能性があるため、特に注意が必要となると考える。

 

4)社会保険診療報酬の適切な調整

前述の通り、現在厚生労働省は消費税の損税部分につき、社会保険診療報酬の改定によって対応したとの立場に立っている。しかし、医師会等が主張するように、負担への対応が不十分であったり、配賦の公平性に欠けたりすることが問題として指摘されている

このため、3)の通り社会保険診療報酬については非課税を保ちつつ課税売上とみなす制度を導入すると同時に、消費税部分を総額で考慮するのではなく、外税的に社会保険診療報酬の点数を定め、消費税率変動の影響を排除することで、「損税」と言われる現象の影響を完全に排除することが医療政策上好ましいと考える。

 

結論

以上、消費税の歴史と現在の制度について、医療と消費税の関係、損税、益税のメカニズムについて考察した。

また、社会保障と税の一体改革により今後さらなる消費税率の引き上げが予定されているが、このことで拡大する「損税」問題については対策が必要である。この損税対策については諸説あるが、私は消費税法における輸出と同様の取扱を採用し、非課税性を保ちつつ損税問題を解決する方法を提案した。

以上


参考文献

[1]医療消費税非課税の経過 診調組 税-2-4資料(平成24.7.27 厚生労働省 医療機関等における消費税負担に関する分科会)

[2]日医ニュース1224号(平成24年9月5日 日本医師会)

[3]Mizuho Short Industry Focus36号(平成24年11月12日 みずほ銀行)