Archive for the ‘裁判所業務’ Category

1.法人税と事業年度

①基本

  • 「事業年度」という用語は会社法において頻繁に使用されているが、定義は存在しない(但し会社計算規則59条において、計算書類等を作成する期間との関係で規定あり)
  • 法人税法に定義あり(13条)

 

(事業年度の意義)
法人税法第十三条
この法律において「事業年度」とは、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間(以下この章において「会計期間」という。)で、法令で定めるもの又は法人の定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この章において「定款等」という。)に定めるものをいい、法令又は定款等に会計期間の定めがない場合には、次項の規定により納税地の所轄税務署長に届け出た会計期間又は第三項の規定により納税地の所轄税務署長が指定した会計期間若しくは第四項に規定する期間をいう。ただし、これらの期間が一年を超える場合は、当該期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)をいう。(略)

 

②清算&特別清算

会社法施行前は、解散にも当然事業年度の取り扱いがなかった
→法人税法における「みなし事業年度」に関する規定が設けられていたのでこちらを適用していた

 

(みなし事業年度)
法人税法第十四条
次の各号に規定する法人((略))が当該各号に掲げる場合に該当することとなつたときは、前条第一項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間をそれぞれ当該法人の事業年度とみなす。

一  内国法人(連結子法人を除く。)が事業年度の中途において解散(合併による解散を除く。)をした場合 その事業年度開始の日から解散の日までの期間及び解散の日の翌日からその事業年度終了の日までの期間
(略)

 

会社法施行後は、「清算事務年度」という1年にわたる期間が定義され、事業年度として適用されることとなった
→これが「法令で定めるもの」となり、解散の場合も法人税法第13条が適用されることとなった

 

(貸借対照表等の作成及び保存)
会社法第四百九十四条
清算株式会社は、法務省令で定めるところにより、各清算事務年度(第四百七十五条各号に掲げる場合に該当することとなった日の翌日又はその後毎年その日に応当する日(応当する日がない場合にあっては、その前日)から始まる各一年の期間をいう。)に係る貸借対照表及び事務報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
(略)

 

 

③破産

  • 破産法には事業年度の定めなし
  • 破産手続の決定により解散した場合
    →解散事由の発生により解散した当該事由発生の日をもって事業年度を区切る(法基通1-2-9)
  • 破産手続開始の決定により解散した場合には会社法上清算すべき場合から除外されている(会社法475条1号括弧書)
    →破産手続開始決定によっても「清算株式会社」とはならない
    →法人税法第十四条(みなし事業年度)の適用がある
  • このため、破産手続が終結しない限り、会社法494条1項(清算事務年度)の適用はない

 

(株式会社等が解散等をした場合における清算中の事業年度)
法人税法基本通達1-2-9 株式会社又は一般社団法人若しくは一般財団法人(以下1-2-9において「株式会社等」という。)が解散等(会社法第475条各号又は一般法人法第206条各号《清算の開始原因》に掲げる場合をいう。)をした場合における清算中の事業年度は、当該株式会社等が定款で定めた事業年度にかかわらず、会社法第494条第1項又は一般法人法第227条第1項《貸借対照表等の作成及び保存》に規定する清算事務年度になるのであるから留意する。(平19年課法2-3「三」により追加、平20年課法2-5「三」により改正)

 

(清算の開始原因)
会社
法第四百七十五条
株式会社は、次に掲げる場合には、この章の定めるところにより、清算をしなければならない。

一  解散した場合(第四百七十一条第四号に掲げる事由[合併]によって解散した場合及び破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)

二  設立の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

三  株式移転の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

 

④会社更生法

  • 会社更生法に基づく更生手続開始の決定があったときは、清算と同様その時点から更生計画認可の時までを1事業年度として取り扱う。
  • 但し、1年を超える場合には1年ごとに区切る。

 

(法人税法等の特例)

会社更生法第二百三十二条
(略)
2  更生手続開始の決定があったときは、更生会社の事業年度は、その開始の時に終了し、これに続く事業年度は、更生計画認可の時(その時までに更生手続が終了したときは、その終了の日)に終了するものとする。ただし、法人税法第十三条第一項
ただし書及び地方税法第七十二条の十三第四項
の規定の適用を妨げない。

 

⑤民事再生法

  • 会社法上解散していない(あくまで会社としては通常通り生存している)
  • 民事再生法には事業年度の取り扱いがない
  • 法人税法上も事業年度に関する規定はない
    →事業年度は全く変動しない

 

⑥[問題]上記の複合形態について

以下の場合、事業年度の取り扱いはどうなるか。

(ケース1)
民事再生手続が開始したあと、再生計画が否決されたなどに基づき裁判官の職権で破産に移行した場合

(ケース2)
特別清算手続が開始したあと、否認権を行使すべき事象が発見され、破産に移行した場合

(ケース3)
解散後、清算結了前に株主総会の決議により継続した場合

ヒント:

  • 最初の手続の際の事業年度変更(清算事務年度適用)の有無に注意
  • 解散後継続の場合の関連条文

会社法第四百七十三条
株式会社は、第四百七十一条第一号から第三号までに掲げる事由によって解散した場合(前条第一項の規定により解散したものとみなされた場合を含む。)には、次章の規定による清算が結了するまで(同項の規定により解散したものとみなされた場合にあっては、解散したものとみなされた後三年以内に限る。)、株主総会の決議によって、株式会社を継続することができる。

法人税法第十四条一項 二十二号
清算中の内国法人(連結子法人を除く。)が事業年度の中途において継続した場合 その事業年度開始の日から継続の日の前日までの期間及び継続の日からその事業年度終了の日までの期間

※ケース2、ケース3については比較的難しいので、条文に照らしてお考え頂きたいと思います。これが正しい!と思われる方、疑問をお持ちの方はお気軽に事務所WEBページの問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

2.消費税と基準期間

①基本

  • 基準期間における課税売上高によって、当期の消費税の扱いが変動する(届出などによる)
    -免税/課税事業者
    -簡易課税
  • 消費税法にも事業年度の単独定義は存在せず、法人税法の定義を参照している。

 

消費税法第2条
十三 事業年度 法人税法 (昭和四十年法律第三十四号)第十三条 及び第十四条 (事業年度)に規定する事業年度(国、地方公共団体その他これらの条の規定の適用を受けない法人については、政令で定める一定の期間)をいう。
十四 基準期間 個人事業者についてはその年の前々年をいい、法人についてはその事業年度の前々事業年((略))をいう

 

②1年に満たない事業年度がある場合(破産)

消費税法第2条
十四 基準期間 (略)法人についてはその事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が一年未満である法人については、その事業年度開始の日の二年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう。

 

例:現時点において、3月決算の会社が2010年9月末に破産を申し立てた場合

  • 当事業年度 :2011年4月1日~2012年3月31日(A)
  • 前事業年度 :2010年10月1日~2011年3月31日(B)
  • 前々事業年度:2010年4月1日~2010年9月30日(C)←1年未満
  • 前々々事業年度:2009年4月1日~2010年3月31日(D)
  • 当事業年度の2年前の日の前日:2009年3月31日
  • 上記以後1年を経過する日:2010年4月1日

→当事業年度の基準期間は、(C)+(D)となる

3.青色欠損金の繰戻控除(特例)

(欠損金の繰戻しによる還付 抄)
第八十条
内国法人の青色申告書である確定申告書を提出する事業年度において生じた欠損金額がある場合(第四項の規定に該当する場合を除く。)には、その内国法人は、当該申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長に対し、当該欠損金額に係る事業年度の所得に対する法人税の額に、当該いずれかの事業年度(以下この条において「還付所得事業年度」という。)の所得の金額のうちに占める欠損事業年度の欠損金額(この条の規定により他の還付所得事業年度の所得に対する法人税の額につき還付を受ける金額の計算の基礎とするものを除く。第四項において同じ。)に相当する金額の割合を乗じて計算した金額に相当する法人税の還付を請求することができる。

4 第一項及び第二項の規定は、内国法人につき解散、営業の全部の譲渡、…その他これらに準ずる事実で政令で定めるものが生じた場合において、

当該事実が生じた日前一年以内に終了したいずれかの事業年度
又は
同日の属する事業年度

において生じた欠損金額があるときについて準用する。

この場合において、第一項中「当該申告書の提出と同時に」とあるのは「当該事実が生じた日以後一年以内に」と、「請求することができる。」とあるのは「請求することができる。ただし、還付所得事業年度から欠損事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である確定申告書を提出している場合に限る。」と読み替えるものとする。

 

(欠損金の繰戻しによる還付をする場合の解散等に準ずる事実)
法人税法施行令第百五十四条の三
法第八十条第四項
(特定の事実が生じた場合の欠損金の繰戻しによる還付)に規定する政令で定める事実は、事業の全部の相当期間の休止又は重要部分の譲渡で、これらの事実が生じたことにより同項
に規定する欠損金額につき法第五十七条第一項
(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)の規定の適用を受けることが困難となると認められるもの及び再生手続開始の決定とする。

以上


塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

「公認会計士が解説する民事再生手続」コラムは、今回が最終回となります。

5.その他の論点

1)税務の観点

民事再生業務の本質は「再生計画案」の策定や決議、履行にありますが、実はその中枢には税務、特に法人税の税務に関する論点がたくさん含まれています。メジャーなものは以下の通りです。

  • 債務免除益課税とタックスプランニング
  • 期限切れ欠損金控除(民事再生の特例)→期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して控除可能(平成17年からは一定の私的整理でも可能となった)
  • 資産の評価損計上(民事再生の特例)→財産評定結果の損失を損金化可能
  • 青色欠損金の繰戻控除(民事再生の特例)→申立前2期間まで可能

2)破産への移行について

再生手続開始の申立の棄却、再生手続廃止、再生計画不認可または再生計画取消の決定が確定した場合において、裁判所は、当該再生債務者に破産手続開始の原因となる事実があると認める時は、職権で、破産法に従い、破産手続開始の決定をすることが出来ます。

また一旦否決されたあと期日が続行できない場合、また続行してもなお否決された場合には、再生手続が廃止される場合があります。手続が廃止されると、原則として裁判所によって破産手続に移行されることになり、やはり破産宣告を受けます。

3)詐欺再生罪について

民事再生法における罰則はいくつかありますが、今回は詐欺再生罪のみ取り上げます。

再生手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で次の行為をなした場合、再生手続開始の決定が確定した場合には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれが併科されます。

  1. 債務者の財産を隠匿し、または損壊する行為
  2. 債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為
  3. 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
  4. 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為(事情を知りながらその行為の相手方となった者も同様に処罰される)

4)不正への対応

民事再生に限らず、破綻状態にある企業やその経営者は追い込まれていますので、どうしても不正に手を染める可能性が高くなります。取込詐欺的な行為はもちろん論外ですが、通常は経営者が個人保証によって自己破産を余儀なくさせられるケースがほとんどであるため、資産隠しを図る場合があります。

自分自身が関与した業務にも幾つか事例があるのですが、守秘義務あるのでこのコラム上は和光電気の例を挙げます。

和光電気と鎌田社長は4月28日、民事再生法適用を大阪地裁に申請し、財産保全命令を受けた。調べでは、鎌田社長は申請前の4月中旬、同法適用申請が避けられないことを認識しながら、個人所有の6種類の株券約3万株(二千数百万円相当)を証券会社から引きだして自宅に隠した疑い。

和光電気は58年設立。近畿地方を中心にチェーン店を展開し、2000年3月期には1262億円の売り上げがあった。しかし、個人消費の低迷や関東系大型店の進出による競争激化などで経営が悪化し、民事再生法の申請に追い込まれた。

鎌田社長は同社の負債総額約300億円のうち約220億円について個人で債務保証していた。 (2003/06/30 17:16 朝日新聞)

以上

こちらのページからご質問などが可能です(連載終了)。


皆さん、あけましておめでとうございます。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。
今年もよろしくお願い申し上げます。

前回は民事再生申立側の手続についてご説明しましたが、今回はこの手続をチェックする、監督委員側の実務について解説します。

4.監督委員側の実務

1)監督委員

民事再生法の特徴の一つが、この監督委員の制度だと思います。民事再生手続において監督委員は通常必ず選任され、再生手続が適正に行われているかどうかについて検討、意見書を作成します。

具体的には、下記のような業務を行います。

  1. 再生手続開始の申立について、そもそも手続を開始して良いのかどうかについての意見を述べる
  2. 開始後の申立企業の財産処分や業務遂行の監督
  3. 業務状況及び財産状況の調査
  4. 不公正な弁済や財産処分があった場合の否認権の行使
  5. 申立企業が作成した再生計画案についての意見書の作成
  6. 再生計画案が承認されたときに申立企業が計画通り履行しているかどうかの監督

監督委員の業務については上記以外にも広範囲に渡る論点があるのですが、私は弁護士ではなくあまり詳細にご説明することが出来ませんので、この項目はこれくらいにしておきます。

2)監督委員補助者

この監督委員に依頼され、会計や税務面についてその業務を補助するのが補助者です。この補助者には公認会計士や税理士が就任します。監督委員を務める弁護士は会計の専門家ではないため、会計や税務の専門家としての側面から補助的に意見を述べる必要があるからです。

「補助者」という名称から見て、文字通り補助的な業務だけを行う役割かと思うと、実は正しくありません。再生計画の大半を会計、税務に関する論点が占めますので、これらについて詳細な意見が求められますし、その意見は通常監督委員の意見書において引用され、意見形成にも大きな影響を与えます。

監督委員補助者の業務において、特に難しいのが、財産評定の検討と、再生計画の履行可能性に関する意見です。

財産評定における評価結果は、開始決定時の清算配当率計算を通じて再生計画が予定する弁済率の妥当性につながりますので、特に重要です。補助者の検討結果によって再生債務者が弁済率を上げざるを得ない場合もあります。

また、再生計画履行可能性に関する意見も重要です。再生債務者は将来の企業努力や需要増大なども見越して再生計画を策定しますが、このような将来の事象を前提とした項目の検討は、本来占い師でも無い限りは言えるわけがありません。そういった意味で極めて困難な業務であると言えます。実際には、過去や直近の実績、現在の営業状況、市況の調査など広範囲な情報を総合的に判断して、「再生計画案の履行が明らかに不可能ではない」点が存在するかどうかについて意見を述べることが多くなります。

経験上から私見を述べますが、私は監督委員補助者としての独立性は十分に保ちながらも、再生に向かって努力する会社(再生債務者)の経営者や従業員たちの強い気持ちを出来るだけ汲み取るように意識しています。もし再生がうまく行けば、再生債務者だけではなく、債権者や従業員、取引先、地域など多くの利害関係者に良い影響がもたらされるからです。

反面、民事再生を不正に利用しようとするケースも少なからずありますので、後述する不正への対応については十分に注意しています。

3)監督委員意見書の効果

さて監督委員やその補助者の意見書がどのように記載されたとしても、最終的にその再生計画案の適否について結論を出すのは再生債権者です。このためもあってか、今まで「監督委員や補助者の意見書が原因で否定された」案件はないとの事です。

しかしこれは、どのような再生計画案でも認める甘い判断を行うというのではありません。実際にそのような再生計画案を当初提出してきた再生債務者もありましたが、そういう場合には監督委員と共に、再生債務者やその代理人弁護士と相当厳しいやりとりを通じて、債権者のためになる計画案に修正させていくべく努力することになります。

監督委員やその補助者は、申立側とはまた違った意味で、民事再生の達成そのものに大きな役割を持つといえるかも知れません。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、税務、破産に移行する場合、不正などについてご説明します。


皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

前回は民事再生手続のあらましについてご説明しましたが、今回は実際の申立手続について解説します。

3.申立側の実務

1)手続の流れ

民事再生法に基づく手続の流れを図示すると、下記の通りとなります(クリックで拡大します)。

申立フロー

民事再生手続申立フロー

以下、上記の図に基づいて各手続を説明します。

民事再生業務は裁判所の管理の下行われますが、やはり主役は申立法人・申立代理人たる弁護士と、監督委員たる弁護士やその補助者たる会計士や税理士です。このため、これ以降は申立側と監督委員側に分けて実務をご説明します。

2)申立から手続開始まで

民事再生法の場合、破産の恐れがある、事業上重要な資産を手放さなければ債務が弁済出来ない恐れがあるなどの申立原因が存在すれば、債務者は支払不能、債務超過、支払停止になる前に申立てが出来ます。債務者に破産の恐れがある場合には、債権者も申立てすることができます。

申立がなされると、速やかに裁判所は保全処分を下します。この保全処分には、全ての債権者に対し、再生債務者、すなわち申立法人の財産への強制執行などを禁止する「包括的禁止命令」や担保権者に対する「競売手続中止命令」などがあります。この保全処分により再生債務者の財産を守らなければ、後に配当されるべき資金や資産などが流出、離散してしまうからです。

この後、2週間程度の間に裁判所は民事再生手続の開始決定を下します。

ところで、書籍やネット上の説明には、申立から説明をスタートしている場合が多くあります。しかし、実は申立の相当前段階で既に民事再生の実務は始まっているのです。例えば、裁判所への事前面談がその一つです。大阪地裁の場合、裁判所の第6民事部が担当となりますが、この民事再生係には申立予定日の2週間程度前に内々の相談に行くことが多いようです。その中で、例えばスポンサーの有無や、事業譲渡などの方向性も内定した、いわゆる「プレパッケージ型」の再生計画案について打合せがなされることも多くあります。

3)手続開始から再生計画案作成まで

保全処分が下され、手続の開始決定がなされると、申立直前の資金繰り難によって差し迫った状況はいったん落ち着きます。しかし、ここでゆっくりしている訳には行きません。

再生債務者は、一定期間(通常毎月)の報告書提出義務の他、開始決定時点における財産を時価評価した「財産評定書」や、再生計画の草案を作成していく必要があります。

財産評定というのは、単なる資産の時価評価ではなく、開始決定時点で再生債務者をハードランディング、すなわち破産させた場合、どれくらいの破産配当が得られるかという一種のシミュレーションです。この結果は、後で説明します弁済計画に基づく弁済率と比較されます。つまり、仮に弁済計画に基づく弁済率が財産評定に基づく破産配当率を下回る場合、民事再生手続が行えない事になるわけです。このため、この財産評定結果を、違法性無くいかに低く算定するかは担当する会計士や税理士の腕の見せ所と言えます。

次に大変なのが、再生計画の策定です。再生計画案とは、借金をいくら減額し、どのように返済していくのかなど、弁済の計画を示したものです。具体的には以下のような事項を記載します。

  •  再生計画の基本方針
  •  再生債権者の免除額や残額の弁済方法
  •  担保などの権利者について
  •  事業計画

弁済方法等に関してはある程度形式的に作成が可能と思いますが、民事再生に係る事業計画については困難が伴います。申立までの間、よほど突発的な事情でも無い限りは相当な経営危機に直面していた再生債務者ですから、申立時点において、資金的にはもちろん、人的にも営業基盤としても、お世辞にも健全とは言えない状況にあるはずです。例えば、重要な部材を仕入れている取引先は、民事再生を申し立てたことで支払いがストップした上に、大半の債権を貸倒損失として計上しなければならない訳ですから、「民事再生しましたので、これからも部材の調達をよろしくお願いします」なんて簡単に言えたものではありません。幸いに取引を続けてもらえたとしても、現金取引や前渡金取引などを前提とされることが多いようです。

このような状況を前提として事業再生を考える訳ですから、相当な困難を伴う計画になると思います。この時点においては、やはり事業に精通し、再生の強い決意を持った経営者と、能力の高い代理人弁護士の組み合わせが必須だと思います。

4)再生計画案の決議と認可まで

一般的には、再生計画案は正式なものをいきなり提出しません。まずドラフトを何バージョンか作り、裁判所に提出します。そのドラフトを叩き台に、後述する監督委員とのすりあわせや、大口債権者に対する説明を行います。

債権者集会で再生計画案が認められるためには、議決権を行使できる再生債権者の過半数で、かつその議決権の総額の2分の1以上の議決権をもつ人が再生計画案に同意する必要があります。

債権者集会で再生計画案が可決されなかった場合は、債権者集会の続行を申し立てます。この続行については、再生決議で必要となる決議要件のいずれか、または債権者集会に出席した債権者の過半数で、かつ出席した者の議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者が、同意する必要があります。期日の続行回数に制限はありませんが、最初の債権者集会から原則として2ヶ月以内が限度となります。

なお、可決されてからは、官報への公告と即時抗告期間が必要となりますので、1か月程度かかりますが、その後再生計画が認可決定され、再生計画の履行がスタートすることになります。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、「監督委員側の実務」からご説明します。


皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

先日「相続の基礎」コラムの連載を終えましたが、今度は少し分野を変えて「民事再生手続」の解説をして行きたいと思います。
この再生手続、批判もあるものの再生型の倒産手続としては非常に柔軟かつ便利で、機動的な活用が可能な制度になっています。
出来れば自分が経営していたり勤めていたりする会社には起こって欲しくない事態ですが、いざというときのために読んで頂けると幸いです。

0.はじめに

一時期は非常に多くの申請があった民事再生法ですが、返済猶予などが行われる中小企業金融円滑化法の影響もあってか、破産と同様ここ1年は申請数が大幅に減少しているようです。

この傾向、見方によっては倒産する会社が減少して良いようにも感じるのですが、本来破綻しているべき会社の本質的な問題が解決されず、単に破綻時期が先延ばしされただけなのであれば、本当に破綻が訪れた場合の影響がさらに大きくなることが懸念されます。特にこの円滑化法が終わる平成25年3月以降、これらの企業がどのようになるか、予断を許さないところです。

今のところは、このまま景気が少しでも持ち直し、先延ばしされた破綻が二度と訪れないことを祈るばかりです。

さて、私は平成15年から幾つかの民事再生業務に関与しています。関与するまでは別の世界の話だった民事再生法もある程度理解するようになり、この手続の重要性も少しずつ分かるようになってきました。そこでこのコラムにおいては、私が理解している制度の説明だけではなく、この業務を通じて得た経験なども織り込めればと思います。

当連載は、今回以降4回を予定しています。

1.倒産とは?

「倒産」という言葉を聞かれた場合、皆さんはどのような印象を持ちますでしょうか?一口に「倒産」と言っても、実は自主廃業、清算、特別清算、私的整理、民事再生、会社更生、破産などなど多数の形態があります。また、手形の不渡りが発生したことを倒産と呼ぶ人もおられます。

企業再生に関与される皆様の場合はこれらの区分はされていると思いますが、一般の事業会社の場合、経理部の方でもその区別がついていない場合があります。ですので、よく「先生、取引先がつぶれました」という表現での連絡を受ける事があります。

民事再生は、これら多数ある会社の倒産形態のうち、事業の再生を最も強力に推し進めることのできる法制度です。

2.民事再生法のあらまし

1)倒産法制と民事再生法の歴史

かつて、戦前に制定された和議法という法律がありました。この法律は、当時としては最も強く事業の再生を考慮した倒産法制でした。しかし、和議が成立した後、再生対象の会社が管財人の管理下から離れ、また債務弁済を遅滞させるような事態が発生しても何ら強制力がありませんでした。このためきちんと完結した事案がほとんど無いことから「ザル法」との批判を強く受けていました。とはいっても、十分な強制力のある会社更生法が定める更生手続は非常に厳格で使いづらいものでした。

これらに対し、民事再生法は、和議法に代わる形で平成12年4月1日に施行されました。この後現在まで10年が経過し、新破産法とともに、既に倒産法制の中心と言っても過言ではないほど浸透しています。

2)民事再生法のイメージ

民事再生法だけではありませんが、同様に複雑な法律制度を説明する際、個別の制度ばかりを説明しているとなかなか全体像がつかめません。そこで、私は普段民事再生法をはじめとする倒産法制を説明する際、人間の病気や怪我とその治療方法に当てはめて説明しています。それは次の通りです。

    手法・法律     人間の治療に当てはめた場合
私的整理・中小企業再生支援協議会 自宅での治療や通院治療
民事再生法 入院による管理治療、時に生死には影響しない手術有
会社更生法 集中治療室(意識なし)、時に内臓摘出などの処置有
破産法 死亡、または死刑宣告

 

3)民事再生法の実績データ

帝国データバンクによると、民事再生法の申請は平成22年まで施行10年間の累計で7754件に達しているそうです。単年度の件数を見ると、平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)は前年度比31.3%増の935件で、平成14年度(948件)以来6年ぶりの高水準となっています。これに対し、平成21年度には29.8%減の656件と大幅な減少を見せています。これは、景気動向だけではなく中小企業金融円滑化法の影響も大きいものと考えられます。

また手続の経過をみると、これまで申請のあった7754件のうち5394件が認可決定を受け、3365件、全体の実に43.4%がすでに終結決定を受けています。一方、申請後に取り下げ・棄却・廃止となった企業も1747件と、全体の22.5%が再生手続きを途中で断念しています。

また、平成20年度中に認可決定を受けた555社のうち、再生計画が判明した163社の平均弁済率は12.4%と、平成13年4月調査時の24.2%を大きく下回っています。平均弁済期間としては、1年以内(一括弁済)の比率が39.2%と、前回調査時の8.1%を大きく上回っています。これは、不動産デベロッパーを中心に、「即死」的破綻案件が多かったことや、低い弁済率でも短期の弁済完了を望む債権者側の意向、“清算型”民事再生の定着などが影響したと見られています。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、申立の実務手続からご説明します。