0.遺言を書こう!

私が2007年頃から、年末に必ず行っている作業があります。それは、「遺言書き」です。

遺言と聞くと、お金持ちのお年寄りが自分の死期が近いことを悟って書くものであるというイメージがありますが、私は特にお金持ちでも死にかけているわけでもありません。では、なぜ遺言を、しかも毎年書いているのでしょうか?
その理由を今回ご説明しますので、ぜひお読みの上実践してみてください。

1.遺言とはどんなもの?

私がお勧めしている遺言形式を説明する前に、まずは遺言について一般的に本などで説明されていることから書いてみます。

1)遺言とは
遺言とは「人が自分の死後一定の効力を発生させる目的で、一定の方式でなされる相手方のない単独行為」のことを言います。簡単に言うと、人が自分の死後、一方的に「あれをしろ、これをしろ」とまだ生きている親族や他人に命令することです。

人の死後は、よほど霊感の強い方でもなければ現世とのコミュニケーションは取れませんので、勝手な事がなされないよう遺言については法律で厳格に要件が定められています。また法律上、遺言で指定出来るのは先ほど説明しました認知、相続分の指定、遺贈などに限られています。

余談ですが、弁護士さんは遺言を「いごん」と読みます。「ゆいごん」ではなく「いごん」と読むと、業界人のフリができます。

2)遺言書の種類
さて、民法上、遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類が定められています(民法967条)。この他に臨終の場合や船舶、航空機中など、やむを得ない場合の特別な方式もありますが、今回は省略します。

では、これらの遺言方式の特徴について説明します。

  • 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
    自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印鑑を押すことで作成できます。
    この方式の長所は、紙一枚あれば容易に作成できることにあります。その反面、専門的知識のない方が書いた場合は法律的な要件を満たしていなかったり(日付の抜け、不動産の指定間違い、署名漏れなどが良く発生します)、ひどい場合には間違いなく本人が書いたかどうかについての疑いが発生する場合もあります。
    また、改ざんを防ぐために封をした場合、相続発生(死亡)後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならなくなります(難易度は高くないですが、書類集めや手続自体が結構面倒です)。
  • 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
    公正証書遺言は、証人2人が立ち会った上で遺言者が公証人に遺言の内容を伝え、これを公証人が筆記、遺言者や証人が確認の上、公証人を加えて全員が署名、押印することによって作成します。作成した遺言書は、原本を公証役場に保管し、控を遺言者が持つことになります。
    この方式は、作成が公証人であること、また遺言書の原本が公証役場に保管されていることから、その証拠能力が非常に高いところに長所があります。また、公証人がその内容についてかなり厳密にアドバイスしてくれる場合も多く、無効な内容となる可能性が非常に低くなります。しかし、公証人に対しては相続人数や相続財産の額に応じて所定の手数料がかかりますし、証人の確保についても、単独で作成可能な自筆証書遺言より手間がかかると言えます。
  • 秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
    秘密証書遺言は、遺言者が署名押印した遺言書を封印し、これについて公証人及び証人2人の前に提出して「自分の遺言である」旨を述べた上で、公証人が日付などを記載、証人と遺言者が自署押印する方式です。
    この方式は、遺言書を秘密に出来るというメリットがあるのですが、誰の目にも触れないため、開封した際内容に不備があれば無効になるという大きなリスクがあります。また相続発生後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならないことや、公証人の手数料がかかることなどのデメリットもあります。

3)遺贈・死因贈与について
民法には、相続以外にも人の死に起因して財産などが移転する場合が規定されています。それは、遺贈(いぞう)と死因贈与です。これらは贈与の一種であるという点で共通なのですが、それぞれ次の様な違いがあります。

遺贈とは、遺言によって財産を贈与する行為です。遺贈には受け取る側の意思は必要なく、遺言にて一方的に「○○は△△に遺贈する」と書けば足ります。

これに対し、死因贈与は贈与する者の死亡によって効力が生じる、贈与する者の生前に締結された贈与契約を言います。死因贈与の場合は、遺贈と異なり遺言に記載する必要はありません。また贈与する者と贈与される者の間に合意(あげます、もらいます)が必要となります。

これらは、民法が規定する親族など、相続の対象となる者以外に財産を分けたい場合に利用されます。例えば、内縁の妻や、親族以外でお世話になった方に対して財産を一部または全部移転したい場合に利用します。

なお、相続税法上はこれらも相続とほぼ同等に扱われますので、遺贈や死因贈与を受けた人は、相続した方と同等の相続税を負担することになります。

4)遺留分
元々、遺言という制度は被相続人が自由に相続人などに対して自分の財産を分配するためにあるのですから、好きなように内容を書いてもその通りに実行されるというのが原則です。

しかし、被相続人が相続人以外の者に全財産を渡してしまった場合や、特定の相続人だけに相続させた場合や生前贈与をした場合には、他の相続人は全く遺産を相続することが出来ません。

何ももらえない相続人が被相続人の財産形成に貢献していた場合も考えられますし、ひょっとしたらその財産がもらえなければ相続人が生活に困窮する事もあるかもしれません。

このような考え方に基づき、民法においては法定相続人に最低限の遺産をもらえる権利を保証しています。この権利に当たる部分を「遺留分(いりゅうぶん)」といい、その請求を行うことを「遺留分の減殺請求」といいます。

父母や祖父母など、直系尊属のみが相続人の場合には法定相続分の1/3が、またその他の場合には1/2が遺留分となっています。また、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

5)遺言書を作成する必要があるのは?
一言で言うと、「法定相続割合によらない配分方法で財産分けを行いたい場合」には遺言を書く必要があると言われています。そのようなケースをいくつか説明します。

  • 子供達やその配偶者同士の仲が悪い場合
    このような場合、ある程度それぞれが納得出来る範囲で財産分けを指定することで、相続財産を巡る争いでさらに関係を悪化させる事態を防ぐ事も可能です。
  • 夫婦に子供がなく、兄弟姉妹が疎遠な場合
    そのまま夫婦のどちらかが亡くなった場合、相続財産は生きている配偶者だけではなく、兄弟姉妹にも相続分が残ります。
    配偶者に全ての財産を移転したい場合は、「全財産を配偶者に相続させる」旨の遺言を作成します。兄弟姉妹以外の相続分の場合は、先にご説明しました「遺留分」があるのですが、これまた先にご説明しました通り兄弟姉妹には遺留分がないため、このような事が可能となるのです。
  • 行方不明者がいる場合
    行方不明で連絡の取れない推定相続人(相続人になる予定のある人)がいる場合には、家庭裁判所などで「財産管理人」を選任してもらわなければ遺産の分割協議が出来ません。このような場合でも、遺言を作成しておけば、遺産分割協議の必要がなくなるためスムーズな相続手続が可能となります。

2.遺言の書き方
1)遺言の本質とは
それでは、ようやく私が考える遺言書の本質や具体的な書き方についてご説明したいと思います。

遺言がどういうものかについて知らない方は少ないと思いますが、その本質が何であるかについて理解している人はあまり多くありません。これは私たち税理士でも実は同じです。

実は遺言は単に財産分けの方法を指定するだけのものではなく、「本来死後には何も出来ないはずの人間が死んでなお意思表示を可能とする」という点で、人間が初めて発明した、「神や自然の摂理に逆らう方法」であると言えるのです。このため、十分な効果を発揮する遺言を作成する場合には、前述の「死んでなお意思表示する」という遺言の本質を十分に理解する必要があります。

ただ、すばらしい効果を発揮する遺言も、しょせんは紙切れに過ぎませんので、一方的なコミュニケーションと同じで効果が不十分となる場合もあり得ます。このため、財産分けなど重要な事項を法律の定め通りに作成することはもちろん、被相続人の意思をスムーズに相続人をはじめとする関係者が理解し、実現してもらえるような「お膳立て」が必要となります。これが「付記事項」です。

付記事項にはよく「奥さんへのねぎらい」や「子供達への希望」を書きましょうと言われる場合が多いのですが、私はもう一歩進んで「なぜそのような希望を書いたのか」という背景から書き起こしていくことをお薦めしています。すなわち、遺言の内容が何故そのような筋書になったのか、またその理由がさらにどのような(主に自分の)歴史に基づくものかについて、自分史のような形で書いていくわけです。

このような配慮に基づき記載された遺言は、自分の死を最大のリスクとする一種のBCP(事業継続計画)として役立つとともに、自分の死後も家族やそれを取り巻く関係者に幸せを与え続けることができるかもしれません。

ということで、前述した「遺言書を作成する必要があるのは?」で説明した方のみならず、家族を持つ人、責任ある職業に就いている人は、皆ぜひ遺言を書くべきだと私は思っています。また、リスクマネジメント的側面から見ると、状況の変化に応じて毎年必ず見直すことも必要だと思います。

2)具体的な書き方
それでは、これまで説明した考え方に基づく遺言書の書き方例をご説明します。
全体をパソコンで作成するのが楽ですし全く問題ありませんが、財産分けなどを示す「相続指定」の項目だけは、別に手書きしたものを作成、捺印して保管しておきます。そうしないと法的効力が認められないからです。

======================= 例 =======================
遺  言  書

日付:平成○○年○○月○○日
氏名:○○ ○○ 印

1.生い立ちとこれまでの生き方
1)生い立ち
昭和○年○月○日 ○○にて出生
苦労や良かったこと、思い出などを少しずつ加えて行っても良い
2)家族
昭和○年○月○日、○○と結婚。
昭和○年○月○日、第一子○○生まれる
3)これまでの生き方
「座右の銘、書」「尊敬する人物」「大恩人」
「毎年の出来事」を簡単に書いておくのもいいかもしれません。

2.各人へのお礼
妻(配偶者)、両親、恩人、子供たち、孫たち、友人など

3.相続指定
(平成○○年12月31日補記)手書遺言作成
(平成○○年12月31日補記)手書遺言に変更なし
(平成○○年12月31日補記)手書遺言に遺言執行者の指定を追加

※以下については、手書及び自署捺印したものを作成、保管

遺 言 書

1.○○(妻)が存命の場合
1)○○には、以下の財産を相続させる
①土地・建物
②現金、預金
③○○株式会社株式
④…
2)○○には、以下の財産を相続させる

………

2.○○が存命でない場合

………

3)遺言執行者として○○を指定する

平成2○年12月31日 遺言者○○○○ ○印

所有資産や負っている負債がそれほど複雑でない場合は上記のような簡易な形でも問題はありません。しかし、企業経営者や不動産を多数所有している方の場合、上記部分については弁護士等に相談して詳細な資産、負債の相続指定を行い、公正証書遺言とした上でその控えを上記手書部分の代わりとすることを強くお勧めします。

4.その他指定・指示
1)後継者の指定について

  • 生い立ちや会社の状況など様々な要因を受け、後継者指定の正当性を説明した上で指定。
  • その他の親族に対しては、後継者や家族への支持、支援を依頼しておく。
  • 採用している相続、相続税対策についての説明(関与してもらっている弁護士や税理士にあらましを書いてもらい、コピーしても可)。

2)葬儀、埋葬について
3)各種資料について

  • 資料の保管場所
  • パソコンなどのパスワード(そのものを書くとセキュリティ上問題があるので、見てほしい人間だけがアクセスできる保管場所を示したり、共通の暗号などで示すなどの配慮が必要かもしれません)

4)当面の事業遂行について(個人版BCP的な内容)

  • 懸念点などと対策
  • 外部の協力者について

5)取引先や友人等への連絡について

5.附録:現在の財産、負債、保険等の状況整理
これらは、遺言に記載された手続を執行したり、死亡後の保険金請求手続をスムーズに行う上で重要な情報となります。以下例を挙げて説明します。

<印鑑>

  • 認印1…一般用認め印(細い三文判)、重要な契約などには一切使っていない
  • 認印2…金融機関など契約用
  • 認印3…○○の際作成、平成○○年より使用なし
  • 実印…現在の実印

<資産>
1)事業用資産(会社経営の場合は法人の貸借対照表などでも可)

  • 事務所土地・建物…平成23年度固定資産税評価額 ○○千万円
  • 自動車…約○○万円

2)個人用金融資産

  • ○○銀行○○支店 普通預金 ○○○万円
  • ○○証券○○支店預け有価証券 ○○株式会社 ○○株
  • ○○株式会社未公開株 ○○株(友人から頼まれ出資したもの)
  • 株式会社○○株式(代表取締役就任) 20,000株

3)個人用不動産

  • 自宅土地・建物…平成23年度固定資産税評価額 ○○千万円

4)保険契約(資産性のもの)
5)保険契約(かけ捨てのもの)
6)その他動産

  • ゴルフ、リゾートクラブ会員権など
  • 美術品など

<負債>
1)事業用
○○銀行 ○○○○ ○○○○円
○○銀行 ○○○○ ○○○○円
○○信金 ○○○○ ○○○○円

2)個人用
住宅ローン ○○銀行 ○○○万円(詳細は別紙返済予定表)

以上