日本は技術大国でもありますから、特許などの知的財産を保護、活用することは大変重要です。

自分の発明を特許にしたものや他から買った特許をライバルの侵害から守る、ということも重要な知財財産の保護なのですが、最近は新たな権利保護の論点が重視されています。

そのうちの一つが「職務発明」と呼ばれる分野です。職務発明とは、会社等に努める従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成した発明のことを言います。

この職務発明について、昨年特許法が改正されて、この4月1日から施行されることとなりました。 今回はこの特許法改正について説明します。

=========================================================

1.特許法

特許が「発明で大儲け」の為にあると思われることが多いのですが、本質的な目的は違います。 特許法が冒頭の第1条で、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」としている通り、特許はまず産業の発達を目的としているのです。 このため、特許の権利者はもちろん一定期間保護されるのですが、その代わりに特許の基本となった技術を世界中に公開しなければなりません。公開と保護を組み合わせることで、産業の発達を促進するのです。

 

2.職務発明

さて、現代の製造業はどこも大規模化していますから、発明と言ってもほとんどが会社等の組織で行われたものとなっています。この場合、ほとんどの発明は、会社等の従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成することになります。 今回説明する職務発明とは、まさにこのことを言います。

ノーベル賞受賞で有名となった「青色発光ダイオード」に関する発明も、発明者と会社等との間で「職務発明かどうか」が争われ、大きな金額について争う訴訟(中村訴訟)となりました。

 

3.従来の取り扱い

では、なぜ「職務発明かどうか」が争いとなったのでしょうか。

従来、特許法は職務発明は「発明した従業員に帰属する」と定め、会社等はこの特許について「通常実施権を有する」とだけされていました。

通常実施権とは、その特許を使っても良い、という権利で、「専用実施権」とは違って排他性がありません。 しかも、会社等がその権利を発明した従業員から譲り受けようとすると「相当の対価」を支払う必要があります。

中村訴訟の場合は、「職務発明かどうか」「職務発明の場合に会社が譲受けていたかどうか」「相当の対価はいくらか、受け取っていたか」が論点になっていました。また相当の対価の計算についても、計算方法によって大きなばらつきがみられました。 このように、従来は会社等が権利関係を明確にして保護しようにも従業員から譲受ける必要がありましたし、相当の対価についても不安定であるということから、知財経営の側面から見て不確定要素が多く問題とされていました。

 

4.改正特許法の取り扱い

そこで、権利帰属や支払対価の不安定性を解消するため、改正特許法において以下の点が改正されます。

  1. 契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ会社等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から会社等に帰属するものとする。
  2. 従業員は、特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとする。
  3. 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとする。

上記の「相当の金銭その他の経済上の利益」については、例えば法人負担による留学の機会付与や、ストックオプション、昇進昇格による給与増加、特別休暇の付与などが含まれます。

なお、会社等が従業員に対してあらかじめ①の定めをしていなければ、従来通り特許は従業員に帰属することとされました。

 

5.今後の論点

特許法改正で権利帰属の問題についてはある程度整理されたと思いますが、他方「対価」や「利益」については引き続き問題が残ります。

この対価、すなわち「いくらになるか」の計算は、実は非常に難しい実務です。 特許をはじめとする知的財産は、物理的な財産と違って100%人間が作り出したものですから、物理的な財産のように度量衡で量ることが出来ないのです。

また、含まれている技術も百者百様ですから、標準的な計算方法が明確に定められている訳ではありません。 今回の特許法改正で、従来にも増してこの「いくらになるか」の計算が重要になってくるものと考えています。